「命の尊厳」終編-18
「も、もう一度…言ってくれないか?」
「ですから…殺人を犯したみたいなんです…」
由貴は警官に連れられ、3階にある刑事課へ向かった。
そこで待っていたのは遠藤と加藤だった。
「誰を殺したんです?」
遠藤の問いかけに、由貴は躊躇いながら答える。
「名前は知りません。でも多分、野上諒子さんを轢き逃げした犯人です」
「…何故、それが分かるんです?」
遠藤の目が鋭く光る。
「野上諒子さんは、自分を轢き逃げした犯人を殺すつもりでしたから、おそらくその犯人だと思います」
「思いますって、アンタ! 自分のやった事、覚えて無いの?」
由貴の答えに業を煮やした加藤が割って入る。しかし、加藤の問いかけに彼女は首を振り、
「何も覚えて無いんです。でも、私がやったと思います。だって、私と諒子さんは一緒ですから…」
遠藤と加藤は、由貴の言葉を理解出来ずにいた。
再び遠藤が訊いた。
「ところで、貴方の氏名は?」
「…森下由貴です」
「じゃあ森下さん。後は向こうの別室で伺いましょうか?」
遠藤と加藤は由貴を連れて、取り調べ室へと向かった。
2時間後の午前9時。
けたたましい電話の音が高橋を襲う。彼は音から逃れるが如く、布団の中でもがいていたが、やがて飛び起きると慌てて受話器を掴み取った。
「ハイッ!高橋です」
「停職のところすまんが急用だ」
相手は課長の牟田だった。
「なんです?」
「特例で停職を免除する。勅使河原信也が殺害された。今から、署に来てくれ」
高橋が何かを訊こうとしたが、牟田は必要事項だけ話すと電話を切ってしまった。
「…! クソッ、切りやがった」
高橋は慌てて洗面と着替えを済ませると、クルマに乗り込み署へと向かった。