投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「命の尊厳」
【ホラー その他小説】

「命の尊厳」の最初へ 「命の尊厳」 79 「命の尊厳」 81 「命の尊厳」の最後へ

「命の尊厳」終編-19

ーエピローグー


3年後。


〇〇市営病院

「森下さ〜ん!」

雑然とした待合室の中に、処置室から呼ぶ看護師の柔らかい声が響く。

「は〜い!」

森下由貴はイスから立ち上がり、処置室へ向かった。
部屋は机と簡易ベッドだけでいっぱいで、彼女が以前通っていた大学病院と比較すれば、かなり狭く感じさせる。
医師はパソコンのコンソールを叩き、患者のカルテをディスプレイに映し出した。

「それじゃあ上着を脱いで下さい」

優しい口調で由貴に言ったのは、加賀谷龍治だった。

「はい」

由貴は笑顔で軽く頷くと、上着を脱いで加賀谷に肌を晒した。


事は3年前に遡る。

由貴の自供から、〇〇署は直ちに現場へ向かうと、果たして、供述通りに勅使河原信也の遺体が見つかった。

しかし、

「じゃあ、自分がどうやって相手を殺したのか覚えて無いと?」

6畳ほどの部屋には、窓際と入口近くに机が1脚づつ。その窓際側に由貴は座らされ、対面の遠藤が彼女に事情を聞いていた。
入口の机に座る警官が、一言々を逃す事無く書き取っている。

供述調書。

追求する遠藤の問いかけに、由貴は俯いたまま、

「私は夢の中で、彼女が犯人を殺すのを許したんです。
でも、何も覚えて無いんです。
昨日の夕方自宅を出て気がついたら、この警察署の前にいたんですから……」

そう答えるだけだった。




一方、高橋はクルマで由貴の自宅へと向かった。

「なんで先走ったのか……」

走るクルマの中、悔しさが口をついて漏れてしまう。

(自分達が早く捕まえてりゃ、こんな事にならなかったんだ…)

己れの力の無さに、悲しみが込み挙げる。

由貴の自宅では、母親の京子が応対に出てきた。

「あら、貴方は桜井さんとご一緒の…?」

「ええ、高橋と申します」

面識のあった京子は、彼を見て笑顔で迎える。が、高橋は悲痛な表情だった。

「あれから、犯人はどうなりましたの?」

京子の無邪気な問いかけが、高橋をよけいに追い込んでいく。


「命の尊厳」の最初へ 「命の尊厳」 79 「命の尊厳」 81 「命の尊厳」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前