「命の尊厳」終編-12
「私にとっても…貴方にとっても…時間はわからないの……」
由貴は顔を上に向けて空を仰いだ。朱と群青が真ん中で混じる空は、形容しがたい美しさを見せてくれていた。
しばし、空を眺めていた顔が下がって諒子を捉える。その目は深く清浄だった。
「前も言ったわ。私達、一緒よ。いつまでも…」
微笑む由貴。それに応えて諒子も笑みを向けた。
「ありがとう…由貴…」
諒子は右手を差し出す。由貴は両手で握った。
「私…貴方の事大好きよ。姉さんみたいに……」
「私こそ。人生で…貴方と知り合えて…最高に幸せよ」
夕闇迫る草原の中、2人はお互いの肩を抱きしめ、運命を嘆いた。
2日後。由貴は検診のため、〇〇大学病院を訪れていた。
いつもの診察。
だが、由貴は何か思いつめた様子で、加賀谷の和やな対応にもどこかぎこちない。
ひと通りの診察を終えた後、処置室を後にして待合室へと移った。
「由貴。どうかした?」
そこで待つ間も終始、俯き加減の娘を見かねて京子が声を掛けた。
京子の優しさに由貴は笑顔を作る。
「何でもない…」
「そう。じゃあ私、お金払ってタクシー呼んで来るから待ってて」
京子はそう言うと、受付カウンターの方へと歩いて行った。
由貴はしばらく、その姿を追っていた。そして、ふと視線を外した。
その時だ。先ほどの処置室から出てくる加賀谷の姿が目に映る。
由貴は思わずその場を離れた。
「先生!」
加賀谷は声のした方を見て、すぐに笑顔になる。
「やぁ、今から帰るのかい?」
由貴はそれには答えない。