花鳥風月[2]-1
レストランを出ると、再び、手を差し出してくれた。その手が、怖がることはないんだよ。と言ってくれているかのように、大きくてあたたかい。
「少し、歩くことになるけど大丈夫かな?」
はい。と返事したものの…。スカートの中が気になる。にちゃにちゃという音が聞こえてきそうで、恥ずかしくて、うつ向き加減に歩く。
「ゆう。」
ホテルのエスカレーターに乗り込むと、そう呼ばれて、顔を上げるとご主人様の顔がすぐ側にあって…。気付いた時には、唇が触れ合っていた。押し付けるでもなく、そっと触れるくらいのキス。それなのにそこはキュンと疼く。
エスカレーターが目的の階について扉が開いていても、しばらくそのままで。誰かに見られたら、恥ずかしい。でも、もうしばらく、このままでいたい。
唇を離すと、ふっと笑って、あたしの手を引き、部屋へと歩き出す。その笑みには何がこめられているの?
バタン。と戸の閉まる音がいつもより大きく聞こえた気がした。この部屋の中で、あたしは……。
あたしの緊張を再びほぐすように、ご主人様は他愛のない会話をしてくれた。アルコールがまわってきたのか、あたしもいつの間にか和んでいた。
「そこに立ちなさい。」
ご主人様が腰かけている椅子より、2mほど離れた場所を指差し、あたしに命令する。
忘れていた緊張、不安、それと期待を胸に指差された場所へと、立つ。
「足を開いて。」
少しずつ、緊張でうまく動いてくれない足を左右に広げてゆく。肩幅より少し、大きく開いた状態でご主人様のよし、という声が聞こえて、足を広げるのをやめ、ご主人様の目を見る。さっきまでの目はしていない。少し、怖くなるような、どこか安心させてくれるような、初めて見るその目に疼く。
ご主人様は椅子に座ったまま、何を言うでもなく、ただ、じっとあたしを見ている。上から下まで。穴が空きそうなくらい、じっと。
視線が絡まると、あたしは耐えきれなくなり、視線を反らす。
何度となく、その状態が続き、何度目かに視線が絡まった時、あたしは、なぜか目を反らすことが出来ず、ご主人様の目をずっと見つめ返し続けた。体を見られているより、目をずっと見られている方が感じてる。それを見抜いたのか、たまたまなのか、あたしにはわからないけれど。ご主人様も視線を反らすことなく、あたしの視線を捉えて離さない。まるで、もう逃げられないんだよって言われているみたい。
何分そうしていたのだろう?実際には5分も経っていないのかもしれない。あたしには、30分はそうしていたように思う。
これだけのことにあたしの息はかなり上がっていた。頭がおかしくなりそう…そう思った時
「スカートをまくりあげなさい。」
声にならないような声で返事をし、震える指先でスカートの裾を掴む。
ゆっくり…とめくりあげていく。ご主人様にはじれったく感じるほど、ゆっくりだと思う。けれど、早まる鼓動、震える指先が、すごくすごくゆっくりとした動きをさせる。その場に倒れこみそうなほど、あたしの呼吸は増すばかり。興奮して興奮して、息がしにくい…。
そこがゆっくりとご主人様の目に触れる。どんなふうに写っているの?きっと、キラキラ光ってる。そう思ったら、恥ずかしさが更に込み上げてきて、足を閉じてしまいそうになる。
チラッとご主人様の視線を伺う。視線はまっすぐにそこを見ていた。恥ずかしさと気持ちよさで、あたしは遂に、その場にうずくまってしまった。