約束…1-4
「…わたしだって側にいたのに。
わたし、梨絵さんのことすごく好きです…だから…
そんなこと、して欲しくないです――」
本当は「わたしの社長を盗らないで」って言いたいはずなのに…
「さっきも言ったけど…梨絵さんが社長にしかそういう泣き言は言えないんだろうなっていうのは見ててわかります。
だけど社長が梨絵さんを…結果的に梨絵さんを傷つけてしまったことをわたしは許せません」
「坂下…」
今なら。
今なら雪人が坂下を好きになったのはどうしてかわかる気がする。
幼いときから雪人に対して向けられる態度が、心の底からの敬意ではなく、ただご機嫌とりのものだと言っていた。
だけど多分…坂下は初めて雪人に会った時から一個人として敬意を示して接してあげてたんだろうな…
あたしに対しても。
これは悪い意味で相当なお人好しなのかもしれないけど――
あなたの言葉に救われてる。
ごめんね――
<翌日>
昼休み…わたしが昼食を終えて社長室へと戻ってくると応接用のソファーで社長は眠っていた。
――わたしが何も思わないって思ってるの?
あんなに乱暴にわたしを抱くくせに。
わたしの体の中を、まるで刻印をつけるみたいに、えぐりとるみたいに…
最近は触れてさえくれなかった。
梨絵さんの話を聞いて…すべて納得した。
なら…梨絵さんをどうして抱いたの?
わたしに悪いって思うなら…どうして抱いたの?
わたしは社長の側へと歩み寄り、ソファーに座った。
「――麗?」
「すみません、起こしてしまいましたね」
「いや…もう昼休憩終わりか」
眠そうに目をこする社長をじっと見つめた。
他の人――しかも梨絵さんを抱いて、どういう気持ちでわたしを見てるの?
梨絵さんじゃなければ。
わたしはいくらでもその女の人を責めることができるけど。
わたしにとって梨絵さんは大事な人。
梨絵さんには社長に甘える以外、抱かれる以外選択肢はなかったのかもしれない。
だけど社長は違うでしょ?
限界だった梨絵さんに考える余裕はなくても、社長にはあったでしょ…?