約束…1-3
「――雪人と寝たわ」
言ってしまった。
絶対に言わないでくれと言われたことを。
テーブルに置いたあたしの手にはポタッと涙が落ちる。
この事実を知って泣きたいのはあたしなんかじゃなくて、もちろん坂下なのはわかってる。
「え…?
言ってる意味が…わからないです…」
「…あたしが誘ったの」
坂下の顔を見ることができない。
どんな顔であたしを見てる?
「――話を、聞かせて下さい」
坂下は、声を震わせてそう言った。
あたしはまさかそんなことを言われるとは思わなくて顔を上げる。
坂下は泣きそうな顔であたしのことをじっと見つめていた。
泣きたいのは坂下のはずなのに。
坂下は泣いていなかった。
「どうしてそんなことしたんですか…?」
あたしの弱い部分。
単に、寂しかったから。
雪人になら甘えられると思ったから。
「――あたし、坂下を羨ましいと思ってた時期があったの。
坂下と雪人が付き合いだした頃のことだったけど。
…ずっと雪人が好きだった。
坂下と付き合う前に雪人と関係を持ったこともあったけど、あの人はあたしを…坂下にするみたいに乱暴に、自分の性欲にまかせて抱いたことはなかったの。
あたしが上に乗って必死で動いて…
そんなセックスだった。
だから坂下と雪人が社長室でしているところを偶然見てしまったとき…
どうしてそこにいるのはあたしじゃなかったんだろうって」
坂下はあたしの目を見てる。
あたしが何度坂下から目をそらしてもじっと見つめているのだ。
そんな坂下に――嘘をつくことなんてできそうにない。
「あたしに別に好きな人ができて、雪人のことはいつの間にか恋愛感情では見なくなって。
だけどやっぱりあたしのことを一番わかってくれてる人で――
あたしは甘えてしまった。
自分に隙間ができて、雪人を誘った。
雪人は優しいから、あたしを傷つけたくなくて抱いたのよ…」
パンッ!!とあたしの頬に手のひらが当たる音がする。
ジンジンと熱い…たたかれた後の頬。
「自分が全部…悪いみたいな言い方して…
甘えるのが社長じゃなきゃだめな理由は見ててわかります。
社長が不器用で、変なところ優しいのもわかります。
だけど…社長とそんなことしなきゃいけないくらい抱え込むならわたしに言えばよかったじゃないですか!」
坂下はあたしに対して怒りの言葉はぶつけなかった。
多分――あたしには言えない気持ちが、さっきの平手打ち。