約束…1-2
「梨絵さーん」
昼休み、社長室から秘書課に戻ってきた坂下はあたしに手を振りながらあたしのところへやってくる。
ほんとに30歳になるの?って聞きたくなるような無垢な笑顔。
「どうしたの?」
あたしは坂下に対する罪悪感が顔に出ないように、ニッコリと笑う。
きちんと、笑えてるわけないんだろうけど――
「ご飯、行きましょ?
わたしのために待っててくれたんですよね?
なんちゃって!
最近梨絵さん、わたしとご飯食べてくれないんだもん」
ぷーっと頬を膨らませて、本当に子供みたいな坂下。
坂下はあたしに何も言ってこないけど…
雪人が坂下に触れないことは、坂下にとってきっととても不安なことで。
「仕方ないわね、じゃあ今日おごるわよ。
あ…それと」
「何ですか?」
「今日、うち寄らない?」
<PM7:50>
「わざわざごめんね」
「いえいえ。
何かお話ですか?」
相変わらず殺風景なあたしの部屋に坂下を通す。
あたしはここで…坂下の最愛の雪人に抱かれた…
坂下をここにいれるのはすごく残酷なことかもしれないけど。
ごめん、雪人…
あたし、あなたとの約束破るわね。
「座って?」
「あ、はい」
坂下を椅子に座らせて、その向かいにあたしも座る。
あたしは坂下をじっと見つめた。
「坂下…最近、雪人としてる?」
「えっ…」
「してないの…?」
「あ…はい…
もう、梨絵さん何でも知ってるからかなわないなぁ」
坂下は顔をまるで少女みたいに真っ赤にして答えた。
そんな少女みたいな…何も罪のない坂下をあたしは傷つけてしまう。
「原因…あたしだと思う…」
何が最善なのかは――よくわからない。
何もしないことの方がいいのかもしれないけど。
「えっ?」
目をぱちくりさせて驚く坂下。