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《glory for the light》
【少年/少女 恋愛小説】

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《glory for the light》-42

(僕は、君ひとりだけの僕でありたい。ずっと、そう思ってる)
たとえ世界が明日滅ぶとしても、僕は君だけの僕で…。
(たとえ、僕だけの君でなくてもね)
今なら思える。側にいてくれるだけで、それだけで…。
(亡くなった彼を忘れろなんて、言えるはずもない。子供のことだってそう。忘れちゃいけない)
そして哀しみに暮れても構わない。何故なら…。
(過去の出来事も、今の想いも、全てひっくるめて君だから、僕はその全てを受け入れたいんだ)
僕が想いを寄せているのは、今の君だけじゃないから…。
(分かる?過去も今も、そして未来の君もそうなんだ)
彼の遺志を、僕が受け継いでもいいかな。未来へと渡る、僕等の切符…。
(いつか、僕等が大人になった時、それまでの哀しみを越えて、僕は笑っていたいんだ。君にもそうであって欲しい)
忘れることと、越えることの違い。それは…。
(言葉にすれば、簡単なこと。哀しみを越えるには、その原因を真っ正面から見据えなければいけないんだ)
だから、僕等はこの街に来たんだよ。此処で、ひとつの物語を終わらせるために、新たな物語に繋げるために…。
(一人で見つめるのが怖いなら、時々、僕に視線を移せばいい)
そう。時には過去から目をそらし、僕を見たっていい…。
(僕は過去の人じゃないから、いつだって君の側にいるから)
ほら、簡単なことだろ…。
(たとえ僕を傷付けることがあったとしても、大丈夫。僕たち二人には、先があるんだ。傷を癒す時間は十分にあるよ)
小さな傷を恐れて、大きな傷を心の内から吐き出すことはできないから…。
(過去を見つめて、その痛みを感じて、未来に繋げる。痛みっていうのは、シグナルなんだ)
未来への切符。それが過去のもたらす痛み…。
(痛いから、何故痛いのかを考える。答えに行き着いて欲しいっていう、無意識のシグナルなんだ)
考えた末に見い出した答えを頼りに、また歩を進めて…。
(だから、痛みを恐れないで欲しい。亡くなった彼が、子供が、その痛みをくれてるんだよ。君に前に進んで欲しいって、幸せになって欲しいって。伝えたいんだ。だけど、彼等はもういないから。想い出の中だけでしか逢えないから、痛みでしか伝えることができないんだ)
それが、死者が遺した本当のメッセージだから…。
(耐えきれなくなったら、僕が癒すから。何をすればいいかは分からないけど、何だってするよ。僕と君の未来のためなら、何だって)
だから…。
(だから…。僕は…)
それ以上は、言葉が続かなかった。
二人を隔てる闇は、どれだけ照らされたのだろう。
こんなに拙い言葉では、ちっぽけな光さえ生まれなかったのかもしれない。
胸が熱くなる。
そして苦しくなる。
もっと伝えなければいけない言葉は沢山あった。聞かせたい想いは星の数ほどあった。
どれだけ伝えても伝えきれなかった。
戸惑う僕の手を、百合はそっと握りしめてくれた。掴もうとして、届かなかった手がそこにあった。
(私を縛るためのものではなくて、私を解き放つための痛み…)
僕は領ずいた。小さな手。強く握れば、温もりと一緒に消えてしまいそうだった。
(そして、僕が君と生きるための痛み)
意味のない過去なんて、本当は何処にもないのだろう。何かが起きても、想い出に残るのはほんのわずかだから、大抵はカゲロウの羽みたいに消えて、忘れてしまう。だけど、かつて百合の中に存在していた命は、同じように儚いけどもっと尊いものだから…。
(…私は、もう子供が産めないかもしれない)
(構わない)
(あなたが望むように、すぐには笑えないかもしれない)
(構わない)
(過去を越えるには、沢山の時間が必要かもしれない)
(構わない)
(本当に…?)
不安と、期待と、また不安。そんな想いがつまった眼差し。
(本当さ)
僕は百合の手を握る力を、少しだけ強めた。小さな手が、温もりと一緒に消えることはなかった。
繋いだ手。いつまで握り続けていられるだろう。
(…ありがとう)
淡い光に照らされて、濡れた彼女の瞳が瞬いた。
(いいんだ)
僕は領ずく。
僕たちは、夜のしじまを破る波の音に耳を澄ませた。

何処へ行くのだろう。僕たちは…。
何時へ還るのだろう。僕たちは…。
何故に戦うのだろう。僕たちは…。
それらの答えは、すぐそこにある気がした。

…スベテハアイノタメニ… 

どんよりと垂れ込めた闇の中、微かに形を見せる海面は、仄かに輝いていた。それが星灯りを映していたせいなのか、夜光虫の淡い瞬きのせいなのか、あるいは、僕の中に目芽えた希望の幻想なのか、僕には判断が着かなかった。


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