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《glory for the light》
【少年/少女 恋愛小説】

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《glory for the light》-41

―前川さんに別れを告げ、病院を後にした僕等は、再び海辺へとおもむいた。彼女の体調を考えて僕は止めたのだが、百合は、どうしても行きたいの。と譲らなかった。
降り積もるような星々。真っ黒な闇の天井で、下界を照らすライトみたいにキラキラと瞬きを繰り返していた。
(大丈夫?)
何度も繰り返した質問に、百合は、しつこいよ。とでも言うように微笑み返した。
僕たちはまた、砂浜にお尻を預ける。
(こんな静かな夜には、海ガメが産卵に来そうね)
僕は水族館での会話を想い出した。あの時も、そして今も、どんな気持ちで彼女が語っていたのか。それを思うと、僕の胸はきつく締め付けられる。
(今ね、ふと思ったの)
彼女は星空を見上げ、星に語りかけるように言った。
(あなたが言った言葉。死んだ人は、夜には星になるって)
(うん)
(だけど、それは期間限定で、今頃は天国にいる)
(うん)
(だけどね、私は、まだ天国に彼はいないと思うの。だって星になった彼はまだ私を見付けてないもの。星の光は、何万光年という距離を越えて、この地球に届くのよね。じゃあ、私が生きてる間に、彼の視線は私に届かないことになるわ)
(そう?)
(きっとそうよ。だから、星になった彼は、きっと眠ったままなの。そして、夢を見てる。楽しかった頃の夢をね。朝になったら目が覚めるけど、夢はいつまでも続くの)
覚めない夢なんて、あるのだろうか。それが悪夢でなかったとしても…。
(私ね、思い付いたの…)
僕は百合の瞳を見つめようとしたけど、夜闇に紛れた二つのまなこは、遠い星の光に吸い込まれていた。
(何を?)
(彼を夢から覚ます方法)
その言葉は、何処か遠い場所から聞こえたような気がした。
(どうするの?)
暗闇の中で、百合が静かに首を振る。
(秘密)
百合の中で、確実に、世界は色彩を変え始めていた。
何故だろう。僕はいたたまれなくなった。
此処にいるはずの百合が、輝く星々に浚われて、何処か遠くに行ってしまいそうだった。僕は心の中でその手を繋ごうとして腕を伸ばす。虚ろな光の粒を掴み、その手の少し前で行き場を誤る。
(夢から覚まして、それでどうするの?)
百合は、何も答えてくれなかった。
(前川さんから、聞いたんだ。彼が自殺したこと。君たちの子供のことも)
僕は告げた。星灯りに黒く浮き出た輪郭が領ずいた。
(…きっと、そうだろうなとは、思ってたわ)
(うん)
(隠してて、ごめんね)
(いいんだ)
(話そうと思ったことも、あったわ。だけど…)
(分かってる。それでいいんだ)
(…ごめんね)
ごめんね。もう何回、彼女はその言葉を口にしたのだろう。彼女に謝られることに、非難されるよりも僕は悲しみを覚えることを、彼女は知らない。
(それについては、何も言わなくていいんだよ。僕は、君の全てを受け入れたいんだ。答えなんて要らないから、僕の話を聞いてくれるかな?)
僕たちが何のために、誰のためにこの街へ来たのか、今、何かを伝えなければ、全ては無意味という単語で包括されてしまう。


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