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《glory for the light》
【少年/少女 恋愛小説】

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《glory for the light》-3

その後、秋が終り、冬が訪れても、僕の頭の片隅から百合が消えることはなかった。
想い出と、未来。相反する二つの時に、彼女の面影を探しては、僕は過ぎ去る日々に意味を付けることを止めた。代わり映えのない毎日でも、想い出は日毎に色を変えていっても、未来は確かに、足音を胸に響かせて近付いてくる。
約束をした訳でもない。誓いを立てた訳でもない。彼女が、ほんの細やかな冗談のつもりで、あの枯れ葉の手紙を残していったとも限らない(普通なら気付かないような手紙なのだから)。
それでも、過去を糧に未来に希望を抱き、想いを奇せることを、僕は愚かなことだとは思わなかった。
その一月後、クリスマス・イヴ。冬休みに入ってからから降り始めた雪は、除雪が必要なほどに積もっていた。
日本中がさんざめく一日の朝、カーテンを開けると、灰暗い曙光が体を撫で、ひっそりと部屋を満たした。換気のために窓を開け放つと、新鮮でクリアな空気が肺を潤す。
黎明の内に蓄えた冷気は、朝明けの体に芯まで届き、思わず一震え。瞼を擦りながら見遣る外の景色は、視界いっぱい白の色。夜明けと共に吸収した光の粒子を、今、発散しているのだろう。
その日の夜は、友人宅で馬鹿騒ぎの予定だった。高校が違い、今のクラスメイトではないが、幼稚園からの幼馴染みたち。
(何が悲しくてさ、聖夜に野郎がたむろして酒飲まなきゃならないわけ?)
毎年、こんなことを言いながらも、僕も含めた四人は、みんなイヴの日には必ず集まった。しかもその内の二人は恋人がいるにも関わらずだ。
(じゃあカノジョと過ごすべきだ。というか、それが普通だろ)
当然、そんな反駁の声が挙がる。
(勘弁してよ。金ばっかり使わされるだけじゃん)
多くの異性が好意を引き寄せるであろう、端正な顔立ちの彼は、ダルそうにマルボロを吹かして言った。
(女に貢ぐのは男のサガだろ?)
揶揄を込めて僕が言った。もう一人の恋人持ちがそれに答える。
(生産と消費の論理が逆転した社会は、とりもなおさず男女間の立場の逆転にも因果を及ぼす。サガというより、流れだな。ハードがあってソフトが必要とされるのではなく、ソフトがあってハードを必要とする…つまりはニーズが確率されつつある訳さ。社会も恋愛もね)
僕より3ランクは上の高校に通う彼は、静かにグラスを傾けながら言った。理性的な顔立ちは如何にも育ちの良さを感じさせ、これはこれで異性にモテる。僕より遥かに高い偏差値を持ちながら、彼の進路は進学ではなく就職。いつだったか、その理由を問うと、彼はこう言った。
(実用性に欠ける勉学への関心は、方向性を持たない奴だけが抱いていればいい。学ぶべきことは全て学んだし、学歴にも興味はない。俺は現場の叩き上げで上を目指すのさ。日本が実力社会になりきれないのなら、アメリカにでも渡る。俺なら何処へ行ってもサクセスする自信はあるからな)
ということらしい。
僕の他に恋人のいないもう一人は、社会変化と恋愛を照らし合わせた彼の言語表現がいまいち理解しきれず、ビール缶を片手に眉間に皺を奇せた。
TVゲームをこよなく愛し、20人のメル友と通信し、三台のパソコンを所持する彼は、コンピューター関連の専門学校に進学が決まっていた。
不良と秀才とオタクと、普遍的な僕。タイプは別々だが、不思議と昔から馬が合った。


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