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《glory for the light》
【少年/少女 恋愛小説】

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《glory for the light》-21

―翌日。
独りで飲んで二日酔いをする哀れな体を引きずり、僕は大学へ行った。バイクに乗れる状態ではなかったし、予報では午後から雨だったので、久しぶりに満員電車に揺られた。
僕は極力、大学では知り合いを作らないように勤めていたので、その日、アカネと逢うまで誰とも言葉を交わさなかった。
「おはよ。今日は早いじゃん」
それまで話していた友だちの和を抜け、アカネが近付いてきた。
「ああ…意外と電車の方が早かったね」
ちらちらとこちらの様子を伺うアカネの友人たちを気にしながら、僕は答えた。
「今日はバイクじゃないんだ?またストライキ?」
一緒に歩きながらアカネが尋ねる。
「今日はバイクじゃなくて、この体がストライキ…二日酔いなんだ」
アカネは詮索するように瞳を細め、疑惑を舌に乗せる。
「…飲んでたの?何処の誰と?」
彼女らしくストレートな物言いだ。酔いで痛む頭に、微かに苛立ちが募る。何故、恋人でもないのにそんなことを詮索されなければいけないんだ。僕だって独りで飲みたい時はあるし、他の女性といたって彼女には関係ない。アカネに僕の自由を束縛する権利はない。
「ひとりぼっちで飲んだのです。本当だよ。というか、君が気にすることじゃないだろ」
後半部分の言い方が、意図せず冷たくなってしまった。何故自分がこんなに苛立っているのか、僕は理解できずに動揺する。
怒らせてしまった。そう思い、彼女を横目にする。アカネは予想に反して何も言わなかった。ただ、悲しげに視線を落とし、踵を返して仲間の元へと戻っていった。
僕はその背を見送り、溜め息をつく。神経質になっている自分自身が苛立たしかった。その原因は何だろう。久しぶりに実家のことを想い出したからだろうか。それとも、あの一枚の木の葉が、心の中で影を作っているのだろうか…。
僕は午前中の授業だけで帰宅した。気分が乗らなかったし、アカネはあんな状態だし、加えて今日は百合が欠席だった。
誰もいないアパートに帰ると、僕はすぐにシャワーを浴びた。二日酔いと共に、この得体の知れない苛立ちを拭い去りたかった。皮膚が悲鳴を上げるまでお湯の温度を上げて、体中に水流を叩き付ける。今朝のアカネとの会話を反芻してみた。無駄な摩擦だと思う。頭をうなだれ、排水溝に吸い込まれて行く水を眺めた。この穴のように、僕の心の中にも、余分な負の感情を吸い込んでくれる穴があったら…。
そんな子供地味た考えが浮かび、僕は途端に自分が情けなく思えた。叱咤するように水温を低下させ、僕は頭から冷水を浴びた。
シャワーから上がると、同じ服に着替える。冷蔵庫から烏龍茶を取り出し、一気に仰った。酔いは随分と覚めたし、これならバイクにも乗れそうだ。僕は体の火照りが冷めない内に、バイトへと向かった。
ヘルメットを首にぶら下げたまま、バイクを走らせる。人通りの少ない道を選び、天然のドライヤーで生乾きの髪の水分を追い払った。無心でバイクを走らせると、次第に鬱屈も晴れていった。冷涼な秋風が、凝り固まった暗いものを浚ってくれたのかもしれない。
ヘルメットを被り、決意する。店にアカネが来たら、彼女に謝ろう。僕が悪い訳じゃないけど、彼女と巧くやるには僕が譲歩しなければならない。恋人としてではなく、友人としてでも、それは必要なことだと思えた。
店に着くと、二周りも大きいV-WAXの隣に停車した。マスターの愛車だ。何気無くタンクに触れてみると、まだ温もりを残していた。
マスターも今来たばかりなのかもしれない(彼がきまぐれで、その日の開店時間を変えることは多々あった)。
僕が扉を開けると、いらっしゃいませ。とマスターが言いかける。
「なんだ、お前か。どうした。遅刻しないのは良いが、早過ぎやしないか?」
「僕は産まれ変わったのです。これからは仕事一筋の男でいこうかと」
「…何の冗談だ?」
「罪のない些細な冗談です。気せず働かせて下さい。あっ、時給は普段通りでいいですよ」
怪訝な表情を浮かべるマスターを尻目に、僕はキッチンへ向かった。
「客、誰もいませんね」
店内を見渡して僕はそう漏らした。今は昼時のため、来店はピークのはずなのだが…。
「ああ…ついさっきまで店閉めてたからな」
「開店時間が疎らなのはいつものことですけど、今日は遅過ぎませんか?時間にルーズな店は接客業として如何がなものかと…」
お前が言うな。そうツッコンだ彼は、何やら慌ただしく、冷蔵庫やら段ボールをあさっていた。


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