《glory for the light》-18
ここまで突っ込んだ高校時代の話は、百合にもしたことはなかった。何故だろう。百合と逢えば、僕は百合の過去を知りたくなる。何故だろう。アカネと逢えば、僕は自分の過去をアカネに話したくなる。ふと思う。人は、大切な1を隠して9を話すタイプと、然程重要ではない9は話さずに大切な1を話すタイプの二種類がいるのかもしれない。僕は前者だ。アカネも前者だろう。百合は、どっちのタイプだろう。前者のような気もするし、後者のような気もした。
「今度は、君の話が聞きたい」
僕は言った。
「私の話?面白いネタは何もないわ」
とアカネ。
「君の大切な1の話に近付こうと思ってさ」
アカネは訳が分からず困った顔をする。
「…大切な1の話?何、それ?」
「何でもない。で、君の高校時代はどんなだった?」
彼女は戸惑ったように曖昧な顔をした。何を話せば良いか分からない。そんな感じだった。
「マスターから聞いたんでしょ?何処のクラスにも一人はいる、いい子ぶった奴。それが私。」
「是非、君の口から聞きたいのです。それに、マスターは君と一緒に高校に通ってた訳じゃないからね。信憑性に欠けるんだ」
「…君の口から聞きたい…とか。思わせ振りな言い方、止めた方がいいよ」
その瞳が、一瞬だけ悲しみに揺れた気がして、僕は返答に困る。もしも彼女の脳裏に、百合と話す僕の姿が浮かんでいたとしたら、僕はどんな言葉をアカネにかけてやれば良いのだろう。僕の複雑な感傷をよそにして、アカネはさっきの表情が嘘みたいに、う〜ん。と悩ましげに唸ると、やがて重い口を開いた。
「やっぱり、マスターから聞いた通りだと思う。大体は予想がつくでしょ?」
達観するようにアカネは卑下する。彼女はとことん、昔の自分を嫌悪しているようだ。
「学級委員長は、一年の時に一回。副委員長は二回。あっ…どうでもいいけど、副委員長ってホントに得なポジションだよね。名前だけで、仕事した記憶なんて全くないもん。肩書きのみで内申アップ。入学してから最初のホームルームでさ、入試の成績が良かっただけで指名されちゃったの、級長にね。ほら、高校の入学直後はみんな控え目じゃない。取りあえず様子を伺って友だちになれそうな奴を探してさ。でしゃばり過ぎない程度に自己PRしたりなんかして。みんな必死なのよ。第一印象って思いの他、重要だからね。で、ホームルームの時に級長の立候補者はいないか。って話になったんだけど、当然誰も手を上げないの」
「そういう状況下での自己推薦は、自意識過剰と認識されるからね。わびしき十代の心理。それで、君が担任に指名された訳だ?」
「うん。ホームルームが六限目でさ、早く帰りたかったからOKした。周りの空気もそうだったしね。級長なんて誰でもいいから、早く終わらせろってね。わびしき十代の心理」
「実は十代だけじゃなく、大人だってそうかもね。それで?」
「それで、辛かったのは後。級長ってレッテルを貼られると、何にもできないんだよ。スカート短くしたり、お化粧したり、早弁したりとかね。教師だけじゃなくて、クラスメイトの目がね、級長のくせに…とかいう光を持つの。私、くせに、ていう言葉嫌いなの。無意味に縛り付けてる感じしない?お前は決められた型通りの行動だけをしろ。そう言われてる気がした」
やはり彼女は思い付いたら即実行、後になって後悔するタイプらしい。
「それが嫌なのに、何でその後も副級長に?」
「分かってないなぁ。一度級長やったら、そのイメージは卒業するまで付き纏うものなの。特に先生方にはね。だから開き直ったのよ。とことん期待に答えてやるって」
良く分からない理屈だが、彼女らしいと言えばそんな気もした。