腐肉(その1)-2
一ヶ月ほど前に僕はたまたま食堂のテレビであの男を見たとき、あの時の男だと何か体の奥から直感のように感じたのを覚えていた。剥げた頭髪と汗ばみ弛んだ頬肉、度数の高い牛乳瓶の底のような黒縁の眼鏡をかけた太った体つきは、あの頃のままだった。男はS大学医学部の教授だった。僕はなぜか惹かれるように男のホームページあてにメールを送った。
…十九歳、美男です。買いませんか…
僕はあの時のことを忘れたいと思ったこともなかったし、自分自身を後悔したこともなかった。ただあれ以来、僕は痺れるような疼きを覚える欲情を、嗜虐に体と心を委ねることにしか感じることができなくなくなっていたのは確かだった。たった一度だけのこの男との澱んだ淫靡な性戯が僕の肉体に刻まれた。それがすべての始まりだった…。あれ以来僕は何回となくいろいろな男たちのものを受け入れてきた。そして男たちも僕の肉体を嗜虐の玩具として弄んできたのだった…。医者、会社役員、政治家…、彼らはいつも社会的なエリートだった。
男たちは僕の勃起した肉棒の静脈に爪をたて、樹液に濡れた表皮をしごく…。僕の薄く白い女のような胸と首筋に甘い接吻と愛撫を繰り返し、ときには激しく僕の唇を求めてきた。
ある時には、僕の甘く潤んだような裸体に鞭を振るい、苦痛に悶え白い肌を震わせる僕を貪りつくす。それから僕の尻の蕾に指を滑らせ、肉の襞を掻き分け、弄くり嬲る。男たちは、勃起し透明の樹液を滴らせた一物を、僕のアヌスに深くゆっくり挿入し、僕の中で射精し、尽き果てるのだった。
犬の尿の匂いが漂うマンションの薄暗いホールで僕はエレベーターを待っていた。
切れかけた蛍光灯の光に何匹もの蠅がたかっていた。いかにも水商売風の中年の女と入れ替わりに僕はエレベーターに乗る。ひっそりとした人の気配のない古びたマンションの廊下は薄暗く、壁にいろいろなペンキの落書きがあった。午後七時の約束だったが少し遅れていた。
八○五号…僕は錆びついた重い扉を開け吸い込まれるように中に入っていった…。