GAME IS MEMORY-6
日付が変わる頃、ゲームクリアは目前だった。感動はない。ただ、空虚な喪失感だけが、僕の胸を締め付ける。
エンディング直前に、予想外のイベントが起きた。
魔法使いの少女、利恵が、街の活気と平和がもたらすエナジーを抽出して、現実世界へと通じる扉の鍵を作った。利恵はその鍵を僕に渡した。
そこまではいい。シナリオ通りだ。
ゲームの中で、それまで二人を見守っていた神様が、僕の心の中だけに語りかける。
その内容を要約すればこうなる。
この扉を開けて、現実世界に帰れば、この世界での出来事は全て、忘れてしまう。
辛かった思い出も、楽しかった思い出も、利恵との思い出も…。
それでも、この扉を開けるのか。
ゲーム画面に、選択肢が表示される。
『扉を開けますか?』
『YES』
『NO』
僕は迷わなかった。
どれだけ過去を悔いても、振り返っても、4年の月日の間に、利恵は僕の隣からいなくなったのは事実。
僕が彼女を手放したんだ…。
現実から目をそむけたって、彼女は戻ってこない…。
僕は『YES』を選択し、扉を開けた。
現実世界に帰った僕は、ベッドの上で目を覚ます。
魔法世界での記憶を失い、また学校へ通う僕。
外に出ると、不意に優しい風が吹いた。
利恵の薄いシルエットが、僕の前に現れた。だけど、ゲームの中の僕はそれに気が付かない。
僕は利恵の体をすり抜けて、歩いている。
利恵は、その後ろ姿を寂しそうに見つめていた。
利恵は、風になって、僕に逢いにこれるんだ。…だけど、その姿は僕には見えない。ただ、懐かしい風が吹いたとしか思わない。
自分が恋した少女が、すぐ後ろにいるとも気付かずに…。
エンディングイベントが終り、スタッフロールが流れた。
僕はTV画面に反射した自分の顔を見て、泣いていることに気付いた。
ゲームクリアじゃない。ゲームオーバー。
あの頃、僕等の間にあったのは、なんて小さなしがらみだったのだろう。
あの日、もし僕が利恵に弁解して、仲直りして、二人で一緒にゲームをクリアしていたら…。
僕は間違いなく、扉を開けなかった。利恵と一緒に、魔法世界にとどまる道を選んだだろう。
僕は、誰もいない隣を見た。
今、この瞬間、そこにいるべき人は、やはり何処にもいなかった。
僕はこれから、18年間産まれ育ったMYTOWNを離れようとしている。大切な思い出を、置き去りにしながら…。
何故だろう。あの日、あの時、この場所で、あんなにもキレイに輝いていた笑顔を、僕はもう、思い出すことができないんだ…。
THEEND