「蜜の味わい」-1
トントン。
「失礼します」
朝から楼主に呼ばれた舞は楼の最奥にある執務室に来ていた。
舞がここに来るのは今日で三度目である。
最初は売られてきたとき。
次が客前に出るための「躾」を受けたとき。
そして、今回。
前の二回とも、舞は楼主に散々な目に遭わされている。
一見、優しげな風貌の主人を前に、舞の緊張は、嫌が応でも高まるのだった。
「で、“初仕事”はどうだった?舞?」
楼主の声に舞の肩がピクッと動いた。
昨夜の情事の記憶に舞の顔が見る見る赤く染まる。
「見せて」
俯く舞に楼主の命令が下る。
だが、舞にはその意味がよく飲み込めなかった。
「…何をですか?」
「だから、今ここで脱いで見せてって言ってるんだけど」
険を帯びた楼主の声に舞は慌てて着ていた白襦袢に手を伸ばす。
しかし、すぐに腰紐にかかった手が動きを止める。
躊躇いがちに楼主の顔を見上げた舞だが、そこにあったのは鋭く舞を見つめる冷ややかな視線だった。
「覚えが悪いね」
呟いた楼主はつかつかと舞の所へ近づいてくる。
「同じことを何回言わせるのかな?」
そのまま、舞の肩に手を置くと耳元に囁いた。
「仕方がないから俺が剥いてやるよ」
言うが早いが腰紐を解くと舞の肩口から手を入れするりと襦袢を脱がす。
「あっ…」
慌てて手を伸ばした舞だが、その手は宙をかき楼主に裸体を晒してしまう。
その躯には昨夜の名残である無数の赤い花が散っていた。
「手を降ろして、きちんと立って」
楼主は舞の周りをぐるっと歩き、舐めるような視線を這わす。
「ふぅ」
わざとらしく吐かれた楼主の溜息が舞をなぶる。
「そんなに痕を残しちゃって今夜の“仕事”舞はどうする気だったわけ?」
楼主の指が舞の柔肌をすーっと撫でていく。
「まさか、商売女だからって他人の痕跡を残したまま、別の男に抱かれようって魂胆じゃないよな?」
カタカタと震える舞の耳を引っ張ると声を吹き込む。
「喩え淫売でも、男は他人の情事の痕を残した女を抱くなんて真っ平なんだよ」
耳から手を離した楼主はしゃがみ込むと舞を見上げた。
「お仕置き、だな」
無情な宣告が部屋に響いた。