「蜜の味わい」-7
---翌日。
舞が目を覚ますと、既に辺りは明るくなっていた。
肩からずり落ちた毛布を慌てて羽織る。
見回して、他に着る物も羽織る物も見あたらないことを確認した舞は、毛布を被ったまま「仮眠室」のドアを細く開けた。
すると、その気配に気付いたのか顔を上げた楼主と目が合ってしまう。
「今頃、起きたのか。早くこっちへ来い」
面白がるような目をして楼主が手招きをする。
「あ…の…、でも、服…」
そんな舞の困惑を楼主は軽く鼻で笑って一蹴した。
「お前の裸なんか見飽きるくらい見ている。いいから呼んだら直ぐに来い」
仕方なしに舞は、毛布を巻き付けたままのかなり間抜けな格好で楼主の前に立つ。
「おら」
渡されたのは一着の制服だった。
「…高校、行きたかったんだろ?」
小首を傾げてこちらを向く舞に楼主が言う。
「遅刻、欠席はしないこと。“仕事”に響かないように放課後は真っ直ぐ帰ってくること。それさえ守れるなら学校側に話はつけてあるから」
舞の顔が見る間に明るくなる。
「いいんですか?」
呆れ顔で返された。
「いいも悪いもそう言うことだ。それとも“ご褒美”は欲しくなかったか?」
慌ててブンブンと首を横に振る。
「なら、とっとと風呂に入って制服姿を見せに来い」
この楼に来てから一番大きな声で返事をした。
「はいっ!!」
躯のあちこちが重く痛んだが、部屋を出ていく舞の気持ちと足取りは驚くほど軽やかだった。