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天使の梯子 〜初恋〜
【初恋 恋愛小説】

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天使の梯子 〜初恋〜-6

病院は外来の時間が終わり、そんなに人はいなかった。
何度も足を運んだ病院だから手術室の場所はわかる。
目的地に足早に向かうと、そこは騒然としていた。
医師や看護士が激しく往来し、春香の母親は両手で顔を覆い、父親に支えられていた。

肩で息をしている俺に気がついた母親が、震える声で呟く。
「り、陸くん……は、春香が」
そこまで言うと泣き崩れた。


「春香ぁ!」
渾身の力を込めてさけぶ。
「……俺はなぁ!会わなくて良かったなんて言わねーぞ!!」
周りが驚いているのも目に入らずに。
「桜の、海を一緒に見るんだろ……?」
精一杯さけぶ。

「だから負けるな、春香……!」

――負けるな……。




果たして俺の言葉が届いたのかはわからない。
……あれから10年程経った今も。


空を見上げながらタバコの煙をふぅっとはきだしたその時、ふいに携帯が震えた。
あぁ、マナーモードにしてたんだっけ。 携帯を取り出してひらくと、見慣れた番号と名前。

「……はい」
「もうちょっと待ってて〜、もうすぐ着くから!」
電話の相手が息を切らせながら言う。

「わかった、気をつけて来いよ。焦らなくていいからな春香……」

電話の向こうで返事をする君。
あれから一緒に何度も桜の海を見たよな。一年目は病室から、それから病院の屋上だったり、学校の桜並木だったり。
桜を見つめる春香の瞳が、本当に嬉しそうで、春香の中に命の輝きを見た。
そして俺はその隣で、何度も『生きていてくれて、ありがとう』と心の中で呟いていた。

そして今日も。
頭上の満開の桜を仰ぐ。
春香の笑顔のようなやわらかい桜色。

今、共に過ごせる事を嬉しく思う。

これからもずっとそばにいられるように、そんな願いを込めながら手の中のリボンのついた小さな箱を見つめる。
小さな箱の中には華奢なリング。

きっと喜んでくれるであろう君の笑顔を思い浮かべながら……。


○end○


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