天使の梯子 〜初恋〜-3
会えないまま、学校は冬休みに入ろうとしていた。
クリスマスが目前に迫り、街はイルミネーションに彩られていた。街行く人々はどこか浮かれているような、そんな気がした。
俺も雰囲気にのまれたのか、あるいは会いに行く口実を作りたいだけだったのか。
自分でもわからないままプレゼントを買っていた。
バイトもしていないから、高いものは買えなかったけど、天使の羽がモチーフになっている小さいネックレスを買った。
真ん中に、なんとかっていうピンクの石がついていた。
見た瞬間春香のイメージにピッタリだ、と思った。
喜んで、くれるだろうか。
いつもの明るい笑顔で……。
クリスマスやイブに行くと、いかにもって感じがしたら、少し日をずらし、終業式が終わり次第病院に向かう。
扉をノックする。
応答がないので、悪いかな……と思いながらそっと扉を開ける。
そこには母親の姿もなく。
一人ベッドに横たわる春香がいた。
点滴を受けながら静かにまぶたを閉じていた。前のような明るい雰囲気は影を潜め、幾分痩せていた。
「……春香」
俺の小さな呼びかけにも返事はなかった。
ネックレスが入った小さな箱をサイドボードの上に置いて病室を出た。
「……っ」
視界がぼやける。
何で涙が出るんだ。
なんだか、春香が……だんだんと春香でなくなっていってしまうような気がして。
怖かった。
クリスマスが過ぎ、年が明けて。学校が始まってからも、しばらく、病院から足が遠のいていた。
でもいつも頭の片隅にあるのは春香のこと。
気になって気になって仕方がなかった。
そんな時。
放課後、携帯に着信があった。
――春香だ。
『今日は体調がいいから、陸くんがもし都合がよければ病院に来れないかな……?』
電話を切った後、俺はすぐに病院に向かった。
病室に着くとそこに春香の姿はなく、きっと屋上にいる気がして、階段をのぼる。
会った日と同じように春香がそこに立っていた。
少し厚手のカーディガンを羽織って。
「春香、今日寒いのにそんな薄着で……」
自分の着ていたコートを春香の肩にかけると、少し照れたように俯いて、
「ありがとう、あとこれも。嬉しかった。お礼が遅くなってごめんなさい」
パジャマの胸元の華奢なチェーンを指でつまみあげる。
クリスマスプレゼントで置いてきた例のネックレス。
「うん、良かった……つけてくれて」
似合うよ、という言葉は恥ずかしくて口には出来ずに飲み込んだ。