陽だまりの詩 1-1
信号が赤から青に変わる。
一斉に道路になだれ込む人の波。
俺、天道春陽(あまみち はるひ)は少しだけ躊躇って、一歩目を踏み出した。
すいませんっ
瞬間的に、ばっと後ろを振り返る。
「……気のせいか」
数日前、不思議な少女に出会った。
そういえば、彼女に初めて出会ったのはここだったな。
人混みをかき分けて懸命に進む車椅子の少女。
同情とか、軽い気持ちとか、そんなんじゃない。
なんだか絶対に助けなきゃいけない、そう心が強く反応していた。
当然のように彼女を助け、二人で花見をした。
花見と言っても、酒も食事も無ければ、それ以前に桜でもなかった。
だけど俺の心は、少女の言葉や涙、美しい景色、そして陽の光でとても満たされた気持ちになった。
あの感覚は何だったんだろうか。
道路を抜け、白く無機質な建物に入る。当然、中も真っ白で、今ではもうすっかり慣れてしまった薬品の匂いのする廊下を歩く。
時々すれ違う人に軽く会釈しながら目的の部屋へと足を進めていく。
そういえば、別れ際に彼女はこの病院に入院していると言っていた。
あの日から、というか昔から、仕事の合間にこの病院に訪れているが、あれ以来彼女に会うことはなかった。
本当に彼女はこの病院にいるのだろうか。