陽だまりの詩 1-3
美沙に荷物を届け終わると、俺は足早に部屋を出た。
相手してくれないから。
きた道をまた歩いていたが、ロビーで足を止める。
おそらく、ここがこの建物で一番人間がいる場所だ。
辺りを見回すが、あの少女は見つからなかった。
車椅子の女性は所々にいるのだが、あんなに印象的な子は見間違えるはずがない。
探すのを諦め、とりあえずコーヒーでも飲もう、そう思って自販機へ向かった。
ガタガタッ
自販機を見つけたとき、その辺りで結構大きな音が聞こえた。
「……」
どうやら女性が奥の自販機で飲み物を買うときに、誤って車椅子から落ちてしまったらしい。
周囲に人がいなかったため、慌てて助けに行く。
「大丈夫ですか」
女性の体を後ろから抱える。
不謹慎だが、ふわっといい香りがした。
「すいませんっ」
「!!」
数日前に聞いた声、何度も記憶の中でリピートされた言葉。
衝撃が走った。
「……響…奏?」
「……え」
彼女の名は響奏(ひびき かなで)。
何度も思い出していた名前。
「あっ…天道さん!?」
彼女が見つからなかった理由。
彼女は腰まで伸びていた長い髪を肩までばっさりと切っていた。