『one's second love〜桜便り〜』-16
――この街は、どうしてこんなに暖かいんだろう?
思えば小学生の頃から各地を転々と渡っていた私にとって、転校は当たり前の事で。別れをいちいち悲しんでいたらきりのない状況にいた。
でも、ある日。
私は知る。初めて訪れたはずのこの街に、昔少しだけ住んでいたこと。
その毎日がとても楽しいから、いつしかここから離れるのが辛くなっていたこと。
……生まれて初めて、誰かを好きになっていたこと。
忘れない。
忘れることなど、できない。
それくらい、大切な思い出。どうして無くしてしまったの。
私は何度も後悔しては、そのたびに相手を傷つけることしかできなくて。
そして、嘘をついてしまう。決定的に、私は自分が嫌いになった。
一人になって。
一人で作った孤独が大きくなりすぎて、私はそれに押しつぶされそうになる。
夜が明けるたびに、何かを失っていく感覚。
いくら日記を読み返したところで、治まることのない喪失。
――分かってる。
―――もう、分かってるんだ。
私は結局、ここに帰ってきたかっただけなんだ。あの人の居たこの場所に。例えそれが、痛みを伴う選択だとしても。
私は要を、失いたくなんてなかった。
『俺は今日の日を、決して忘れることはないだろう。
岬がまたここに、帰ってきたいと言ってくれた日。今までのどんな言葉よりも、嬉しかった。
約束があれば、俺達はまた会える。
場所が決まってたら、俺達は安心できる。
きっと、この先。途方もないくらい長い時間に耐えていく。違う道を進むその中で、俺も岬も色んな経験をして、辛いこともあるかもしれない。でも岬は、強い子だからたぶん大丈夫。俺はその点、ちょっと自信ないけど……頑張ってみようと思う。
いつか君が帰ってきた時に、誇らしい自分で居られるように。
4月25日。
本日は快晴。約束された再会を信じて、俺はここに誓おう。
ただ、彼女に会うために。この街で生きていくことを……… 』