『one's second love〜桜便り〜』-15
だったら……?
決まってるじゃないか。もっと簡単で、根本的な事実。
理由なんかない。作る必要がない。
自然と、気付いたら惹かれていた。
たった、それだけの事。
窓の外を見る。
ざわざわと、木々が揺れて気持ちいい風が流れてきた。
春の声が、足音を立てて近づいてきてる。
――そんな、気がした。
?
『4月23日 雨
今日、俺は初めて寄せ書きというものを書いた。クラスの連中が次々とそれを回していって、それぞれの別れを書き連ねていく。
岬はたくさんの人に好かれていたのに、さよならの言葉を一言で纏めてしまうみんなを、理解できなかった。
そうこうしている内に、俺の順番が回ってきて。
何も考えてなかった訳じゃないのに、手が止まってしまった。
こんな紙切れ一枚に、俺はどうしてもどうしても納得できなかったから。
放課後になってクラス委員の奴に急かされるまで、俺の意固地な抵抗は続いた。
震えるペン先を必死に動かして、やっと、書いた言葉は。
他のみんなと同じ、他愛もない挨拶のようなものだった。
岬は明後日、どこか遠くへ旅立つ。転校先は聞いてもよく分からなくて、俺からすればそれはテレビなんかで見る外国と大して変わらないくらい、関係のない場所なんだろう。
そうやって気の遠くなるような時間の中で、俺はいつしか記憶に流されて、岬にとって、他の人と変わらない存在に成り下がってしまうのだろうか。
また、否定的な考えを始めている。
こんな無想ばかりしてる自分が、たまらなく嫌だった』
駅をでて十五分。閑静な住宅街を抜け出し、少し広い公道沿いに歩いていく。町の中心地でもあるショッピングモールを通り越して、そこからは一本道。
左右を外壁に囲まれた狭い路地をまっすぐ進んでいった先に、その場所はある。周囲を林に囲まれ、手入れの行き届いてなさそうなフェンス越しに私はその光景を眺めた。
本当に、小さな小さな公園がそこにはあった。
寂れたブランコ。
埃だらけのバックネット。
しばらく使われていないのか、所々に補修された跡が見られる。
……妙な既視感だった。私はここに、来たことがある。それも何回も。
家から近いはずのこの公園は、何故か見覚えがあまりなくて。
毎日通ってるこの道から、まるで切り離されたかのように静かに佇んでいた。
中に入ると、空いていたベンチに腰掛け一息つく。夕暮れ。茜色に染まる景色を、私はただ呆然と眺めていた。