アパートメント-2
それから、半年。
私たちはまだ一緒にいる。
恋愛関係も何もないけれど。
まあ、もういない姉の香織に似ているのは外見だけなのだとわかっていたのだけど。
それでも、あの時見捨てることはできなかった。
それは香織と彼女こと、篠崎美奈子を別の人間だと知った今でも、あの時とった行動を間違いだとは思わない。
あの時出会ったのは偶然じゃなくて必然だったんだって。
少なくとも私にとって、美奈子の存在はかけがえのないものなのだから。
マンションに帰り、ただいまと玄関を開けると奥からおかえりなさいという声といっしょに、同居人の片瀬斗織がおたま片手にスリッパをぱたぱた鳴らしてやってきた。
「まだご飯できてないのよ。先にお風呂入ってもらえる?」
部屋着にエプロンをつけて小首をかしげる様は、新妻もらっちゃったみたいだと毎回思わずにはいられない。
「わかった。じゃあ先に………」
といいかける途中で、キッチンからただよってきたハンバーグの焼けるいい匂いからか、おなかがぐーっとなる。
「あらら。美奈子ったらおなかへってるのね。急ぐからもう少し我慢しててね。」
くすくす笑ってぱたぱたとキッチンへ戻っていった。
湯船につかり極楽極楽とつぶやきながら、腹をさする。
腹へってたんだな……。
言われないと気づかないくらい空腹かどうかの自覚が薄い。
私は篠崎美奈子。
二十一歳でフリーターをしてる。
ある一件から斗織に拾われてここにきてから、忘れていた色々なことを思い出すことが増えた。
食事だったり、睡眠だったり、笑い方だとか、そんな基本的なことを。
斗織は初対面の時はかっちりした話し方をしていたけど、普段は女口調なのだ。
体の線は細めだが、キリッとした精悍な顔つきをしている。
優しくて温和な人柄もあって気を使わずに話せるから、しょっちゅう職場の同僚たち(女)から電話がかかってくるのをみるとモテてるんだろうな。
出会った当初は女口調から新宿2丁目の方面かと思っていて、もう一人の同居人の奥山慎に、
『恋人と住んでるところにきて邪魔じゃないの?』とストレートに聞いたせいか、ものすごく嫌そうに否定されたっけ。
慎についてはまた今度話すけど、何はともあれ男二人に女一人が同居するという生活に不思議なほど順応している自分がいる。
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