サディスティックに愛されて-4
「沙希の母親、結婚するらしいんだ。そこで、沙希は邪魔者扱い。「私の居場所は何処にもない」って落ち込んでた。『隆文には言わないで。あいつ変に優しいとこあるから…情けかけられたりしたら嫌だもん』って言ってたぜ。だけど俺は、お前に話しても大丈夫と思ったから話した。だって、沙希を救ってやれるのは、おまえだけだと思うんだ。きっとおまえのココの中にあるのは『情』だけじゃないだろうから。な?隆文」
拓が膝を曲げて屈むと、覗き込んだ俺の左胸を拳でトントンと叩いて『心(ココ)の中だよ』と言って笑った。
確かに俺は、沙希の現状を聞いて、居ても立っても居られない気持ちでいっぱいだ。
それは、拓が言うように『情』だけではすまされない、胸の奥底から沸々と湧いてくる自分でも驚くような衝撃的な感情だった。
「拓…俺って救い様がないくらい鈍い男だな」
そうだ…沙希に対する自分の気持ちに、今頃気付くなんて…あんな酷い言い方しか出来なくて、沙希はどんなに傷心しているだろう。
後悔の念に苛まれながら立ち上がった俺は、地面に向かって、ハハハと弱々しく笑うしかなかった。
「大丈夫だよ。今からでも遅くないよ。追いかけて行って、沙希の喜ぶような事を言ってやればいいんだよ。おまえの本心を話してやれば、きっと彼女は救われる。自分を好きかどうかわからない人にキスするのなんて並大抵の勇気じゃ出来ないことだからな。そこまでしてもらったんだから、次はおまえが勇気を出す番じゃないか?」
「!!」
『拓…おまえは一体いつからココに居たんだ!?』やっぱり恥ずかしくて聞けないその台詞を飲み込んで、真っ赤になりながら後ずさりする俺を見ている拓は、やっぱり優しく微笑んでいた。
『早く追いかけろよ』と半ば追い出されるようにして、ドシャ降りの雨の中に放り出され、走り出した俺の身体は、何故か沙希の自宅とは別方向へと向かっていた。
なぜだろう…沙希は家には向かっていない。そんな気がしてた。
俺が躊躇うことなく向かった場所は…
「沙希……」
通いなれた我家の前で、無意識に零れた名前…
立ち止まった俺は、はぁ、はぁと、全力疾走の余韻を白い息にして、吐き出していた。
アスファルトを叩きつける冷たい雨に打たれながら、前方を見据えてただ立ち尽くす沙希の後姿…
その時、チラリと見えた、色を失った唇が、微かに動いた
『お父さん…』―……
力を失った自分の肩からスルリと鞄が落ちた時の、『ポシャン』という音を聴きながら、気が付くと俺は、前方に見える沙希のほうに向かって走り出していた。そして…
突進するように後ろから抱き締めた衝撃で、前のめりになって倒れそうになった小さな身体をグッと手繰り寄せ、しっかり胸の中に受け止めた。