光の風 〈風神篇〉中編-5
「頼むから、止めてくれ。」
擦れた声で呟き、まずは瑛琳の態勢を起こしてあげた。瑛琳と目が合う。
「オレはそんな偉い奴じゃない。」
切ない表情、カルサは千羅の態勢も起こしてあげた。千羅と真っすぐに向き合う。
「もし…貴方に何か有れば、この国の行く末も危ぶまれます。」
必死の説得だった。
カルサは思わず感情が高ぶり、千羅から顔を逸らした。目をきつく閉じ、選択をする。千羅と向き合い、想いを声にした。
上に立つ者としての覚悟を取り戻す。それは自分に対しての、自分の情けなさを再確認することにもなった。
「苦労をかける。」
情けなく微笑む、それは千羅と瑛琳の願いの肯定の合図だった。自然と二人に笑みが浮かぶ。
「いいえ。私達が望んでしていることです。」
千羅が真っ先に答える、それをカルサは笑顔で受けとめた。
「それでは、私は持ち場に戻ります。」
瑛琳は一歩引いて軽く頭を下げた。そして頭を上げ千羅に向けて微笑む、千羅はそれに笑顔で応えた。心の中でお礼を言う。
瑛琳が振り返り歩き始めた時、カルサの声が瑛琳の足を止めた。
「瑛琳、頼む。」
その表情は真剣だった。瑛琳は体を向け直し、少し身を屈めて応える。
「お任せください。」
そうして瑛琳は一瞬にして姿を消した。
それを確認した二人は互いに顔を合わせ頷く。カルサが先に足を踏み出し目的の場所へと走りだした。千羅もそれに続く。
二人はリュナを捜すために再び動きだした。
時を同じくして、城門を突破された爆発音はリュナの耳にも届いていた。
「リュナ様！！」
危機感を覚えたレプリカは思わずリュナをかばっていた。地面に伏せている二人の耳に遠くの闘志のぶつかる声が聞こえてくる。
レプリカは体を起こし辺りを伺った。
「城内に魔物が侵入したんだわ。」
緊迫した声は思わず囁きになってしまう。手元でリュナがうめき声をあげた。
「レプリカ…？」
「リュナ様！お怪我は有りませんか？」
リュナは頭を抱えながらゆっくりと体を起こした。さっきまでの雰囲気とは違い、意識ははっきりしている。
「大丈夫。あれ？私どうしてここに…。」
リュナの声を遮るように、また闘志に満ちた声が辺りを包む。ただならぬ雰囲気にリュナは本能的に立ち上がった。