『鵺』-1
「こんな所に何?」
春風の舞う学校の屋上。
そのさらに上。周りをコンクリート囲まれた壁の奥に、制服姿の男女が2人。
佐久間伸治は、同じクラスの野澤理沙に呼び出されていた。
「あのさ…佐久間と、こうなりたくって……」
壁に寄り掛り、計算し尽したような上目遣いで伸治に媚をうる理沙。普通の男子なら、その仕草だけで簡単になびくだろう。
しかし、伸治は違った。
「…こうなりたいってのは……」
伸治の身体が跳ねた。
「ヤッ…!」
理沙の右腕を掴み、身体を寄せて自由を奪う。
「こういう事か?」
左手は服越しの乳房を押し潰し、息が掛かる程に顔を近づけた。
伸治の顔が理沙の瞳に映る。
(…何、コイツ…普段と違うじゃない……)
戸惑いの理沙。
それは、彼女の知る伸治とはかけ離れていた。
細く切れ込んだ目尻。濡れた瞳は黒曜石のように輝いている。通った鼻梁に薄く朱い唇。
その顔立ちは、整ったというより〈美しい〉と形容するのが相応しい。
だが、それだけだ。
人との関わりを極端に避け、誰とも交わろうとしない伸治。
そんなストイックさと顔立ちとが相まって、ミステリアスな存在として女生徒の注目を集めている。
理沙も、その一人だった。
整った顔立ちに愛らしい瞳。社交的で男子に人気がある理沙。
いつも周りの視線を浴びていたい彼女とは反対に、全く意に介した様子も無く瓢々としている伸治に興味を持った。
〈どうせ童貞君の恰好つけだ。ちょっとからかってやろう〉
そう考えた。
そう、ちょっとした悪戯のつもりだった。
だが、彼女の思惑は外れた。
「どうした?こうなりたかったんだろ」
伸治の右手は理沙の乳房を鷲掴みにし、左足は彼女の内腿へと捩込もうとする。