『鵺』-4
「…う…んん…」
吐息を漏らしながら驚く理沙。
指先は既に湿り気を感じていたからだ。
(…そんな…まさか…)
「はぁっ…あぁんっ…んふぅ…」
吐息は喘ぎに変わった。
理沙には分からない。堪え切れないくらいの屈辱を受けながら、身体は蜜液を溢れさせて悦びの疼きが走り巡っている。
指先は次第に激しくクロッチを擦り、伸治に掴まれた余韻の残る乳房を強く揉みしだいた。
「はあぁっ!…あぁっ!…あ…」
理沙は瞬く間に絶頂に達した。
伸治の事を思い出しただけで、堪える事も出来ずに。
「…はぁっ…あ…ううん…」
恍惚とした表情で余韻に浸る理沙の脳裏には、伸治の姿が浮かんでいた。
理沙が自慰に耽る同じ時刻。
街並みを黒塗りのメルセデスが走り抜ける。
きちんとした身なりをした運転手。そのクルマのバックシートには、大柄の外国人と佐久間伸治が乗り合わせていた。
ヒゲ面にグレイの瞳。名をガマル・セメンコフ。彼はチェチェンから日本を訪れていた。
ガマルは訛りのあるロシア語を早口で捲し立てる。
「きれいな街並みだな」
伸治は笑みを浮かべて彼を見た。
「昔から住んでるから気がつかないよ……」
「初めて日本に来たが、こんな街並みはモスクワにも無いぜ」
男は感心するように窓の外を眺めていたが、ふいに伸治の方を見つめると本題に入った。
「シンジ。ミッションに変更は無いんだな?」
伸治は男の質問に何度も頷くと、流暢なロシア語で返した。
「ガマル。ミッションに変更は無いよ。仲間にはそう伝えてくれ」
メルセデスは街中から左に道を折れると、先のマンション前で停まった。
伸治はガマルと力強い握手を交す。
「じゃあ、週末に」
そう言うとクルマを降りた。ガマルは右手を軽く上げて彼に会釈をした後、運転手に指示をだした。
運転手はアクセルを強く踏み込んだ。メルセデスは軽くホイールスピンをすると、猛スピードでマンションを後にした。
マンションの一室。伸治は玄関を潜って中に入る。途端に食欲をそそる香りが、部屋の奥から漂って来る。
玄関を上がり、香りのする方向へと歩みを進める伸治。突き当たりの扉を開けた。
「ただいま。姉さん」
キッチンに立つ女性に挨拶をする。