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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてクミコかく語りき-1

茅野久美子、20歳。
今年の春で、もう大学三年生になった。人生の夏休みもすでに折り返し地点。
また、年間行事の勝手もある程度わかってきたこの時期は、最も雑事に駆り出される学年といえる。てなわけで、あたしは新入生歓迎会の幹事を仰せつかっていた。
あー。たいぎ〜。
「クミコ」
会場の居酒屋にある備え付けのベンチで、だらんと四肢を伸ばしているところに声を掛けられた。
「あーい〜よー」
かけたばかりのパーマを人差し指でくるくる巻きながら返事をすると、そこには黒のパンツスーツに身を包んだジュンがいた。立てた襟がデキる女っぽくて、つい妬けてしまう。
とはいえ、かくいうあたしも入学式以来のツーピースだ。淡い桜色の布地なので、烏の群れの入学式ではポワンと浮いてしまった覚えがある。
あたしは昔っからヒトと同じなのが嫌いだったなあ、なんて思い出していると、つま先に鈍い痛みがした。履き慣れないパンプスのせいだ。
「何してるンだ?」
「日干し」
そう答えると、ジュンは暮れかかった紺色の空を見上げた。
「日干し、ねえ……」
今のあたしは、虫の居所がすこぶる悪い。きっと、すごくブサイクな顔をしているに違いないんだ。
「ダルそうだな」
ジュンが大きな目を伏せて苦笑した。あたしはそれに対して、思いっきりため息をついてやった。
「そりゃあ、そうに決まっとるじゃん」
あたしたちが二人揃って、歓迎会の幹事になってしまった経緯はこうだ。
時は3日前にさかのぼる。本来の幹事である1コ下の後輩が、季節外れのインフルエンザにかかってしまった上に、今までなぁーんにも手がけていなかったのである。呆然とする先輩がたと顔面蒼白の後輩たちに見兼ねて、責任感の強ぉぉおっい村井純子サンが!!代役を名乗り出たのだ。あたしはそのオマケ。
「マアな……」
ジュンがしぶしぶ相づちを打つ。
「むーううう」
そんな彼女を、あたしはまだ許してやらない。
店の予約やら、先生方のご予定を聞き出すやら、先輩と新入生の出席率が最も高い日を割り出すやらをっ!……ここ3日で済ませたのだ。この時期は店だって見つかりにくいってのに。
「もう、お酒飲む前から疲れたわいね」
「おツカれ」
ジュンはぽんぽんと肩を叩いて、あたしをなだめようとする。
こんの、お人好し村井!あんたが『やります』なんか言うけぇよ。
研究室の先輩方も、「村井さんがやってくれるなら安心ね」なんて言うんじゃもん。
「ほらほら。シゴト」
ジュンが指差す方を見やると、日本文学研究室様ご一行がぞろぞろとこちらへ来るところだった。
「今度、クレープおごりんさいよ?」
じとっとジュンを睨むと、彼女は『イクツでも』と笑った。



「乾杯」
カチンと軽やかな音を立てて祝杯を交わす。
「お疲れさま」
ジュンと滝田君にそうつけ加えた。二人ともお酒には弱いので、乾杯からアルコール度数の低いカクテルを頼んでいた。一方、あたしの手にはジョッキ生。
「ぷはあっ」
「相変わらずイィ飲みっぷりだな、クミコ」
以前ビールの美味さがわからんと嘆いていたジュンは、喉を鳴らすあたしを羨ましそうに見つめた。
「うまい〜」
本当は焼酎が好きなのだが、しょっぱなからソレでは新入生に軽く退かれてしまうので、悪しからず。
「茅野さん、お疲れさま。僕が助けになれたらよかったんですが」
滝田君が申し訳なさそうに謝ってきた。彼はどこかの研究大会に論文を投稿するとかで、そんな余裕がなかったのだ。


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