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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてクミコかく語りき-2

「気にせん、気にせん」
ぐーっとビールを流し込んでから、一言。
「ジュンにクレープおごってもらうけぇ」
それを聞いた彼はひとしきり笑ってから、『そりゃいいや』とジュンをちらりと見た。
「クミコには、ワルかったなって思ってるし……」
当のジュンは、ちびちびグラスに口をつけながら、歯切れ悪く答えた。滝田君の隣だと、やけにしおらしい。
パワーオブらぶ、じゃのう。
「ほんまよぅ。ばり疲れたもん」
あたしがオーバーに肩を叩きながら言うと、ジュンはさらに縮こまった。
よーし。コレで後3日いぢめちゃろ。
一人で色々と画策していると、隣に座っていた新入生らしき男の子が話し掛けてきた。
「先輩、飲み物は?」
「ん?」
気が付くと、あたしのジョッキはすでに空だった。見ると、男の子のグラスも残りわずかである。
「君は、飲まんのん?」
あたしの訛りに少し驚いたようだったが、すぐにその子はほほえんだ。
「俺は未成年なんで」
私はふうん、とだけ言って、店員を呼んでからノンアルコールカクテルと芋焼酎のロックを頼んだ。
「俺、飯田章太郎っていいます」
あたしは、もずく酢を啜りながら彼の自己紹介を聞いていた。
「あたし、茅野久美子」
箸を置き、きちんと正面から見ると、飯田は最近のワカモノ風な子だった。
きりっとした眉にくっきり二重の瞳は、世間で好青年と言うのに申し分ない。クセっ毛のある黒髪は、うまい具合にカットされていてハネがかわいらしく、浅葱色のジャケットに色の薄いデニムを合わせていた。
こーいう、いかにも自信有り気ぇなやつ。正直、苦手。
「よろしく」
さっさと話を終わらせて席を立とうと思ったのだが、これがなかなか離れられなかった。
「聞いてくれます?」
から始まり、飯田のアホは一人暮らしのコツを伝授してくれだの、単位の取りやすい授業は何かだの、元カノの話だの、バイトを紹介してくれだの、延々としゃべり続けたのだ。
「へえ……、ほぉ……。うんうん……」
間抜けな相づちを打つだけのあたしの前には、空いたグラスばかりがいくつもいくつも積まれていった。
横目でジュンと滝田君を探すと、二人そろって桃色ほっぺで笑い合っているところだった。
なんでもデキる、村井純子さん……かあ。
私は飯田に気付かれないように、小さなため息をついた。
あたしなんか、代役を任されただけで文句ばっかりじゃ。人間が小さいなぁ。
こんなんじゃ、いけん。
久しぶりの自己嫌悪に陥っているところに、
「皆さま。宴もたけなわではありますが、ここで新入生に自己紹介をしていただきます」
と、ジュンのよく通る声が遠くで聞こえた。
あ。幹事の仕事やん。
やっぱダメダメじゃあ、あたし。全然できとらん。
「飯田君。ちょっとゴメン」
「あ、はい」
ことわりを入れてから、司会進行の手伝いをしようと立ち上がると、腰から下に違和感を覚えた。
「やや?」
そのまま歩きだしたが、なかなか軸が定まらない。
これは……、まさしく千鳥足!?ぴよぴよ。
……なあんて感動している場合ではない。気を取り直して、ぐっと前を見据える。
「茅野さん、大丈夫ですか?」
あたしの奇行に気が付いた滝田君が、ふらつく身体を支えてくれる。思ったより頼り甲斐のある腕に、胸がきゅうと抑えつけられるように痛くなる。
…………じゃけぇさ。やばい、って。
わざと彼の顔を見ずに、その手を突っぱねた。


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