高崎龍之介の告白 〜伊藤美弥について〜-3
「そんなだから、もぉ理由なんて僕自身も分からない。たぶん、一目惚れだよ」
「……」
ふと見ると、美弥は呆けたような顔をしていた。
「……んな……」
かすれた声が、唇から漏れる。
「そんなひどい状態だったの……?」
そっちか。
「まあね」
僕は微笑んで見せた。
「でもショックだったのは……入学式の日に美弥を見付け出して声かけたら、ハンカチの事を綺麗さっぱり忘れられてた事だよ」
僕の言葉に美弥の頬が、みるみるうちに赤くなる。
「それどころか、僕を介抱してくれた事さえも忘れてたんだから……ねぇ?」
「だ、だって……!」
「おかげで僕はそんなに印象の薄い男かとしばらくクヨクヨして、アプローチする勇気も引っ込んでたんだからね」
「……ごめん」
美弥が、僕の両頬に手を伸ばして来た。
ちゅ
柔らかくて甘い唇が、触れてくる。
「これで許して……?」
甘い声で囁かれて、僕は顔を蕩けさせた。
「……特別に、許してあげましょう」
本当に……どうしようもなく、僕は美弥を……。
「お願いを、叶えてくれたら」
「……どうすればいい?」
僕は美弥を抱き締める。
「……言って欲しい」
囁くと、美弥が微笑んだ。
「愛してるよ、龍之介」
僕が望んだのは、その言葉だけ。
だけど美弥は、続きを用意していた。
「だから……二年経ったら……結婚して、下さい」
――僕は固まる。
「龍之介以外の男の人、もう好きになれそうにない……」
……僕の体そのものが、美弥以外の女の子が触れる事を許さない。
「私じゃ…………駄目、かな?」
僕達はまだ若いというより幼い年齢で、いつか……大人になったら、美弥にきちんとプロポーズする気でいた。
「私じゃ……嫌、なの?」
「……」
あまりにもびっくりし過ぎて、美弥に応えられなかった。
「嫌、なんだ……」
「ち……違う!!」
慌てて叫ぶ。
『いつか僕の赤ちゃんを産んで欲しい』と、間接的なプロポーズをした事もあった。
それに対して美弥は、頷いてくれた。
『龍之介が私を必要としてくれる限り傍にいて、愛するよ』と、美弥自身が誓ってくれた事もある。
「嬉しくて、びっくりして……何も言えなかっただけなんだ!!」
「……本当……?」
「僕が……プロポーズするつもりだったのに……!」
「先……越しちゃったんだ?」
美弥がしがみついてきた。
「そうだよ……」
美弥を抱き締めながら、僕は言う。
「愛してる……美弥。いつか……結婚して下さい」
「はい」
僕は、美弥の頬に手を添える。
美弥が、目を閉じる。
神の前で誓い合うように、僕達は唇を重ねた。
(了)