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風船。
【悲恋 恋愛小説】

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風船。-1

『レイチェルです。はじめまして。』
彼女が流暢な日本語でそう話したのは或る夏の日のことだった。


***


『風船にさぁ、手紙くっつけて飛ばしたら誰かに届くかなぁ?』
夕立の中で春奈が言った。

『たぶん届かねぇよ。途中ではぜるでしょ』

しばらく、雨の音しかしなかった。

『やってみる?』

俺の声が沈黙を破った。春奈の表情が変わった。


***


レイチェルはイングランドから来た。が、彼女がそこにいたのはたった2ヶ月だった。
父はスウェーデン人、母は英日のハーフで彼女の外見は外国人のそれだった。

だが彼女は日本で生まれ、日本で育ち、日本語しか喋れない。

自己紹介を終えてもレイチェルはまだ緊張していた。
彼女の頭の中は不安でいっぱいだった。


***


『翔人ぉ!やる気あんの?』

『んん?あぁ。あるよ。』
正直、春奈の張り切りようにはついていけない。てか、なんでこんな猛暑の中でも元気なんだよ!ってくらいに元気がいい。

『たぶん明日は雨が降るからねぇ、今日中に風船飛ばしたいんだよ。』
ヘリウム入りの風船に顔を描きながら春奈が言った。

『ハイハイ。つーか、手紙になんて書くの?』
おれがあくびしながらそう訊くと手紙の内容までは考えていなかったらしく、少し考えてから言った。

『えーっと・・・。まず名前でしょ。住所、誕生日に血液型かな。』
『個人情報漏れまくりだろ・・・。とんでもねぇヤツに拾われたらどーすんだよ?詐欺とかに利用されるぞ。』
『そのへんは大丈夫!翔人のを書くから。』
『や、ダメだろ。』

結局10分後、春奈はオレの個人情報満載の手紙(住所だけ自分)をくくりつけた風船を空へと放った。


***


時代の進歩はすごい、とレイチェルは思った。

こんな離島でもインターネットで世界と繋がっている。
ただしパソコンがあれば、の話だ。

新しく引っ越してきた家にはパソコンはないし、車もない。コンポもなければラジカセすらないのだ。
パソコンは学校の、職員室に1台、図書室に1台ある、らしい。

やっぱり離島は離島だ、とレイチェルは思った。


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