風船。-4
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母の母国・イングランドは気候も、言葉も、なにもかもが違っていた。
怖くて学校に行けず、部屋の中、庭の芝生の上、のんびりしていた。
祖父も、祖母も、優しくしてくれた。
日本を離れて、2か月考えて、わかった。
どこの国もおなじ。
やさしい人、やさしくない人。
それは、どこにでもいるんだってこと。
『そうか・・・日本に帰るか?』
親に話したら、こう言った。
嫌だった。嫌だったけど、帰らなくてはいけない気がした。
知らない「誰か」に、逢うために。
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「レイチェル」、なつかしい響きだった。
忘れようとしていた、想い出。
『この島について、まだよくわからないだろうから。だれか、教えてやってくれないか。』
担任の声が耳に入ると、無意識のうちに利き手が挙がっていた。
休み時間、席に着いた彼女に、話しかける。
『オレ、翔人。よろしく。』
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9月の上旬。
教室の窓に差す日光は強く、外から入ってくる風もまだ蒸し暑かった。
遠くには入道雲。蝉が忙しく鳴いている。
ただ、夏は、確かに終わろうとしていた。
『レイチェルです。はじめまして。』
彼女が流暢な日本語でそう話したのは或る夏の日のことだった。
ふと、秋風が吹いた。
あの日のように。