風船。-3
***
レイチェルは夢を見た。
時計は午前1時30分。明るい空は夜を端に追いやっている。眠らない街。
街の明かりで白んでいる空を見上げるとせつなくなる。
外見のせいなのか、引っ込み思案な性格のせいなのか、わからない。
イジメ、だった。
『おまえなんて、いなくても。』
その時、確かに、「死にたい」と思った。
でも、「死にたくない」とも思った。
でも、日に日に「死にたくない」は押され始めた。
レイチェルはカッターを握った。
レイチェルは夢を見た。
静かな、夢だった。
***
夕方の空。切ない色だった。
遠くには入道雲。夏はもうすぐ終わろうとしていた。
『あのさ・・・』
オレが言った。
『何?』
春奈が言った。
『なんでもない・・・』
オレが言った。
『ふーん。』
春奈が言った。
『あー、あのさ・・・』
オレが言った。
『だから、何?』
春奈が言った。
『お前のこと、好き』
オレが言った。
春奈は何も言わなかった。
夕方の空。色が深くなっていった。
遠くには入道雲。ふと、秋風が吹いた。
***
レイチェルは感覚を失っていた。
ぼやけた視界に、ぼやけた世界が映ってた。
ぼやけた世界に、ぼやけた自分がいた。
気付いたら、病院にいて、
気付いたら、腕には包帯が巻かれていて、
気付いたら、隣で親が、泣いていた。
全部、話して、
全部、わかってくれた。
***
秋雨が服に染みる。
まるで、わからない。
まるで、感じない。
オレはわけもなく、走っていた。
まるで、聞こえない。
まるで、見えない。
― おまえ、まだ、返事してねぇじゃん。お前のこと、好きなんだよ。
まるで、わからない。
まるで、まるで・・・夢。
春奈が、死んだ。