風船。-2
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返事が来た、と春奈から聞いて翔人は驚いた。
風は西から東に吹く。ここから飛んでいったら東にあるのは太平洋。さすがに太平洋の向こう側まで飛ぶなんてことはありえないからだ。
『どっからだよ?』
『んーとねぇ・・・しょうきんい。』
『何処だよ、それ。』
手紙には記されていたのは小金井市本多という住所とレイチェルという名前だけだった。
「ありえねぇ・・・」と思った。
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東京に帰る、と両親に告げられた時はかなり嫌だった。
東京の思い出は差別と偏見という2単語で片付くからだ。
通りすがる人ににジロジロ見られることはしょっちゅうだし、外見のせいなのかは知らないけど、クラスでもイジメにあった。
でも、「東京」に帰ってみたら、ビル群や雑踏とはほど遠い離島だった。
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『返事書こうよ。』
と言っても、『絶対あやしい!』とか言う。
『臆病者ぉ〜。』
と言っても、『絶対送るなよ?』とか言う。
帰り際に、『ホント、送るなよ!』とか言うから、『しつこい!』って言った。
返事、送るけど。
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ある朝、春奈がいきなりしゃべりかけてきた。
『そーいえば、翔人。レイチェルさんから返事来たよ!』
どうやらアイツ、返事を送ったらしい。
鳴りを潜めて3週間。
ほぼ忘れかけてた事柄だった。
『知らねーよ!』と言いたいところだったが言わなかった。
『お前送ったのかよ、返事。』
『返事来なかったら、レイチェルさんも不安じゃない?』
『レイチェルさんだって返事に返事が返ってくるとは思ってなかっただろーよ。』
『そーかなぁ。』
これで4往復目だという。顔が見えない相手だけに心配はある。
『そいつ大丈夫なの?』
『大丈夫だよぉ。同い年だって言ってるもん。』
『そんなの嘘かもじゃん。』
『・・・。』
そのことについて、春奈はそれ以上しゃべらなかった。