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未来と過去と今と黒猫とぼく
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未来と過去と今と黒猫とぼく ー約束・前編ー-2

「そうだね、確かにそうだった」
「お前いっつもいつの間にか消えてんだもんな、一言位声かけろっつーの」
「別に…ぼくはお前と居る為に一人になってたんじゃないよ」
「あ、あぁ…そうか、まあ、うん、そうなんだろうな」
「うん、そう」
「そうか…、うん、そうだよな」

歯切れの悪い返事に、ぼくは疑問符を浮かべた。
いつもなら「この野郎」、と苦笑しながらのヘッドロックを食らっていたはずだ。
やはり武内にもあるのだろうか。
終わった時間を惜しみ、そしてそれに縋ろうとする気持ちが。
ぼくは高校三年間を殆ど武内とつるみながら過ごした。
別段、必要以上に一緒に居ようとした事は無かったと思うが、それでも大概の行事でぼくと武内はつるんでいた。
やはりそれが自然な事だったからだ。
その時間を惜しんでくれているとするなら、その事に感謝をしておくべきなんだろう。

「…ありがとう」
「あ?」
「何でもないよ」
「……」

ぼくと武内がどんなにローテンションな会話をしていても、相変わらず、クラス会のバカ騒ぎは続いていた。
カラオケはいつの間にかカラオケ大会になって、雑談はもはやグラウンドの端から端でも会話できる位に声が大きくなっていて、誰かと誰かが始めたプロレスは相撲の勝ち抜き戦になった。
盛り上がれば盛り上がる程、みんなのごまかし方が雑に、露わになっている様な気がした。
泣いているように見えた、喜んでいるように見えた、鬱憤を晴らしているようにも見えたし、ただ衝動を抑えるのが面倒なだけにも見えた。
そしてそれら全てをただそれだけだと見て、うんざりしている自分がいた。
武内には悪いが、やっぱり来るんじゃなかった。
いっそ店の前にある狸の置物を持って来て自分の代わりにその場に置いて帰ろうかと思ったが、流石にそれは三年間の終わりに相応しく無い。
行動には責任を。やはり来た以上、居る義務があるのだろう。
そこは思春期の猿の集まりで、ぼく自身もその猿の一人だ。

「ふう…」

自業自得、とぼくはため息をついて、コップに三杯目のジュースを注ぎ、騒ぎを眺めながら、武内とだらだらと暇つぶしに終着点を延ばすような話を再開した。




クラスのみんなとは、一次会で別れた。
武内は「一応主催者だから」という事で二次会にも参加するらしい。
ぼくはそれを聞いてクラス会のあの惨状の原因は三井でも、発端は武内だった事を今更思い出した。
悪いな。
武内はそう言って背を向け、駅に向かうぼくとは反対方向の、カラオケに行くクラスのみんなに合流した。
悪いな。
何気ない一言の響きがやけに気になった。
その一言にぼくが今まで見たことの無い武内を見た気がして、それが何に対しての言葉なのか、判断しかねた。
みんなを見送った後、ぼくはその事について考えながら駅へ歩きだした。
クラス会の時も思っていたが、改めて考えても今日の武内はおかしかった。
いや、ぼくがおかしいと感じ初めたのは、クラス会でぼくと話しをしてからだ。
卒業式の時も、クラス会へ共に向かう電車の時も武内は普通だった。
三年間の内で確立した、ぼくの中での普通の武内だった。
いきなり、そう、いきなりと言っていい程急に、会話の途中で武内は静かになった。
ぼくはそれを過去への感傷と判断したが、確証は無い。
一体何が武内をあんなに萎えさせたんだ?
考え事をしていて、後ろからの足音に気付かなかったらしい。
背後からポンと肩を叩かれた。
振り返ると、伊隅さんが立っていた。


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