投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

未来と過去と今と黒猫とぼく
【その他 その他小説】

未来と過去と今と黒猫とぼくの最初へ 未来と過去と今と黒猫とぼく 3 未来と過去と今と黒猫とぼく 5 未来と過去と今と黒猫とぼくの最後へ

未来と過去と今と黒猫とぼく ー約束・前編ー-1

「しけた面、してるな」

皆が騒ぎに騒いでいるクラス会の会場の隅で1人座ってちびちびと飲み物を飲んでいたぼくの横に武内がどかりと座った。
武内が提案したクラス会は思った以上に人を集めてしまい、初めは男子数人のみでやろうと言っていたところが、あれよあれよと言う間にほぼクラス全員が出席する旨となっていた。
数人ならどこかのファミレスで済んだのだが、四十人程の人数となるとどこか広い会場が必要になる。
武内は口を滑らせた張本人である三井を罰として幹事に決めた。
だが送別会シーズンという事で近場の手頃な場所はとっくに予約で一杯であり、三井は方々探し回った挙げ句、ぼくらの高校の最寄り駅から三駅離れた、彼の親戚の知り合いが経営しているこの居酒屋の宴会場を会場としたらしい。

「そうでもないよ、ただ考え事をしてただけだ」

武内は傍にあったコップを取るとそれにジュースを注いで、自分も飲み始めた。
高校を卒業をしたとは言えぼくらはまだ未成年で、さすがにクラス会で堂々と全員で酒、という訳にはいかない。
三井いわくそれは二次会で、という事だった。

「へぇ、どんな?」
口の端をくいと歪めて、武内は聞いた。

「いや、卒業式ではみんなあんなに泣いてたのに、数時間後によくこんなに楽しそうに騒げるなと思ってさ」
「お前、卒業式で泣くのは社交辞令みたいなもんだろ」
「社交辞令」
「礼儀だよ」
「ここで騒いでるのも礼儀みたいなものかな?」
「多分な。ごまかし、と言い換えてもいい」
「ごまかし、ね…」

ぼくは騒ぎが続く会場を眺めた。
誰かは宴会場のカラオケで流行りの歌を歌っていたし、誰かは誰かとバカみたいに笑いながら話していたし、誰かと誰かはプロレスの真似事をしていた。
秋と夏のような温度差が、ぼくらとその会場にある気がした。
武内の言った事が本当なら、彼らは何に対して何をごまかしているんだろう。

「…いつもこうだったよな」
「ん?」

ぼくは武内に目を向けず、武内もぼくを向かずに喋り続けた。

「いつもこうしてみんなの騒ぎがデカくなってくると、決まってお前は自分から隅に行って、そしてその隣におれが来る」
「そうだっけ?」
「ああ、そうだ」

ぼくは既に終わった三年間を思い出した。
体育祭、文化祭、修学旅行、クラスマッチ。
なるほど、確かにそこに自分が居た記憶はあるが、騒ぎに参加した覚えは殆ど無い。
いつも少し探さなければ見つからず、しかしみんなが見える位置でぼくは一人になった。
みんなが何かに有頂天になる時、どこか着いて行けない自分と気遣い屋の武内が一緒に居るようになったのは自然な事だったんだろう。
つまらない思い出だ、と後悔をしておくべきなんだろうか。
今日だって、迷った末に此処に来たのは武内の「来い」の一言だ。


未来と過去と今と黒猫とぼくの最初へ 未来と過去と今と黒猫とぼく 3 未来と過去と今と黒猫とぼく 5 未来と過去と今と黒猫とぼくの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前