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未来と過去と今と黒猫とぼく
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未来と過去と今と黒猫とぼく ー黒猫編ー-3

例えくろが死んだ後であろうと、恐怖の大王が数年遅れでやって来たり、突然不思議な力が自分にやどっていたり、なんて事は無い。
くろを墓に埋めてからおよそ11時間、昨日ぼくが起きてからきっかり二十四時間。
その間地球はそ知らぬ顔で一周して、いつもと変わらない朝を再びぼくらの下に運んで来た。
それが例えくろが死んだ後であろうと、変わらずに。
ぼくはくろの夢を見た。
猫のくせに流暢に日本語を操って、感情たっぷりにぼくに語りかけて来た。
最後の方なんて今にもその大きな丸い目から涙を零しそうな声だった。
だが、夢から覚めた瞬間、ぼくは自分を笑っていた。
何を馬鹿な事を。
どんな内容の夢であろうが、所詮夢は夢。
幾ら可愛がっていた猫がその中に出て来たって、それはぼくが脳内で自分の都合のいいように構成した妄想か、深層心理の表面化だ。
くろは言った。
「この世は地獄だ」と。
そんなのとっくに皆が分かっていて、口にしないでいる事だろう。
そしてその皆の中にはぼくも含まれている。
分かっていても、決して口には出さない。
だからあの夢は可愛がっていた猫が死んでも尚、この地獄に留まり続けなければならない自分に、自分自身が同情して見せてくれた幻だ。
ご苦労様、もう十分だよぼく。
だってぼくは考え事をしながら無意識に学校へ行く支度をしている。
今日の卒業式の後のクラスの集まりに、出席すべきかどうかを悩んでいる。
だから、きっと本当は最初から悲しくなんてなかったんだろう。
随分と可愛がっていた黒猫が死んだ。
言ってしまえばただそれだけの事で、その事実を受け止めるだけだった。
単純に、ぼくは次の日からいつもと変わらない朝をいつもと変わらず過ごすだけだった。
ただ、いつもと少し違う所を言えば、胸に少しモヤモヤとした虚しさがある。
悲しさではなく、虚しさ。
つまる所、ぼくの感情はまったく揺れていなかった。
ぼくが作り出したくろ、お前が感謝していた小さい頃のぼくはとっくに居なくなったみたいだ。
きっと数学の計算式とか、遠い国で起こる戦争だとか、親しい人の陰口だとか、そんなものが少しずつ彼を殺していったんだろう。
ごめんね、さようなら。とぼくは心の内で呟いた。
それは死んだ黒に対してであるようだったし、夢に出てきた黒に対してでもあるようだったし、それ以外の全く関係のないものに向けられているような気もした。
自分の感情が何に向かっているか分からないなんて、やはりぼくはただの18歳だ、若すぎる。
だがそれがどうであるにしろ、その言葉は昨日の内に黒の墓の前で言うべきだろう。
今さらどんな言葉を言っても、それは自分への慰めだった。
さっさと学校へ行こう。
そう思い、無意識に準備を済ませていた鞄を持った時、ぼくは今日が卒業式である事を再び思い出した。
高校生活も今日で終わり、か。
そう思うとさすがに感慨深いものを感じた。
高校の三年間がぼく自身に起こした変化は、無いようでも有るようでもあった。
だかどんなに言おうが三年間は三年間であって、何かを意識せず維持し続けるには長すぎる時間だ、やはり何かしらの変化はあったはずだろう。
ぼく自身にそれが分かっていないので、何とも言いようがないが。
もしかしたらそれは他人に指摘されて気付くべきものだったのかもしれない。
それにしても武内の言っていたクラス会、やはり出なければいけないのだろうか?
ぼくは置きかけた鞄を持ち直し、部屋を出た。


ー黒猫編ー 完


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