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アイラブボイス?
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アイラブボイス?-1

底冷えするように冷酷かつ繊細に響く声。絡み合い更に質を上げるミュージック。観客の熱気を帯びるステージ。

そこが俺の世界。

マイク片手にただ歌ってるくそがきだ。

だが、ここでなら誰にも負けない。

さらなる上に、さらなる高見へ。とこまででもいけると俺は思っていた。

『アイラブボイス?』


俺は本気だ。

そう言って実家を飛び出して来たものの現実の壁は無情にも高かった。

人一倍、歌が上手かった。人一倍、努力だってしたさ。
でも、現実はこれだ。
田舎と都会は違うらしい。俺程度のレベルなんか何人もいるんだとよ。

地に這いつくばった蟻のように落ちた俺。
くそだせぇな、おい。

「そこで終わりかい?」

分厚い声だ。どこか日本人離れした声の質だった。
一体、どこのおっさんだ。

「てめぇは本気で歌をうたったのか?」

うるせぇ。
てめぇはなんだ?

「俺か?通りすがりAってとこだよ。それより質問に答えろよ」

…あぁ、うたったさ。
たが、これだ。どうも音楽の神様にでも嫉妬されたか。

「人が求めるのは声だけじゃねぇんだよ」

あ?意味分かんねぇこと言うなよ。
俺はダメだったんだ。

「その者の人生に惚れんだよ。うたが上手いだけじゃ駄目なのさ」

なんだお前。
俺に説教かよ。

「いいや、お前のために言ってんじゃねぇよ。自分のために言ってんだ」

はぁ、ますます意味分かんねぇぞ。

「ま、簡単に言うとまだ諦めんなよ。てめぇのファンなんだ、また聞きたいんだよ」

…何言って…る…
焦点がぼやけ意識がなくなった。


――◇

気を失った過去の俺を眺める。薄汚れたいい気な餓鬼だ。

「まったく過去の自分を励ましにくるなんてダセェな」

俺は振り返らず立ち去る。
もう過去の俺を見る必要はない。
これからのこいつの行き先は知っている。

――◇


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