夜に芽吹く向日葵-9
「好きにして。私はもう寝る」
男に背を向け、寝ようと姿勢を変えた時…男が言った。
「病院に運ばれてきた頃、お前はどんな生活してたんだ?」
初めて私のことを訊ねたかと思えば、一番嫌なところを突いてきた。
「答える必要ないでしょ」
「助けてやったんだから、知る権利あるだろう?」
「ドクターの発言とは思えないわね」
相当嫌味な言い方で私は男にそう言う。
また無言な時間になるかと思ったが…
しかし…実際は
男は、私を後ろから抱きしめてきた。
力強くではなく、そっと誰かに掛けてもらう毛布のような抱き方。
「お前だって、俺の秘密知っただろ」
「何のことよ…」
「和菓子が好物だってこと」
この男にとって…自分が和菓子が好物なのと、私の過去は同レベルなのか。
相変わらず、私を飼い犬程度にしか思っていないのだ。
まあいいか…
どうせこの男に知られたところで、この男は同情して涙を流すわけでもない。
私は自分の過去を話し始めた。
面白い過去でもないし、悲劇に満ちたドラマのような過去でもない。
看護師になり数年たったころ、それなりのやりがいを見つけられたが…
のめりこみ持論を見つけるあまり、上司とそりが合わなくなっていた。
その頃、重症患者の輸液ポンプ操作のミスが起こった。
必ず二人で確認し、確認表にそれぞれ捺印することになっていたにも関わらずだった。