夜に芽吹く向日葵-5
「あはは、凄い断り方だなあ」
彼は、以前から何度か私を誘う。
しかし、それが遊びだろうと本気だろうと私にとってはどうでもいいことだ。
この長男がクリニックを継ぐ日が来たら、私はさっさと辞めてやろう…
こんなポジティブな人間に雇われたら、私は気が狂ってしまう。
そんな中、朝一番で電話が鳴る。
60代の父親が、朝から呂律が回らず手足を動かしにくいのだと…その娘から電話が来た。
近所に住むその親子はさっそく来院し、頭部の画像を取る。
軽い脳梗塞で、救急車を呼び大きな病院に搬送することになった。
院長はさっそく紹介状を書き、私は家族と一緒に救急車に乗り込んだ。
搬送先の病院は、かつて私が運ばれた病院。
つまりは、あの男の勤める先。
患者は即入院となり、点滴による治療が始まるらしい。
幸い症状は軽く、麻痺もほぼ残らないだろう。
救急隊の人が、戻るついでの道だからクリニックまで送ってくれると言うが…
私は自分でタクシーで帰るからと断り、中庭へ向かった。
(大きい病院…)
白衣の上から、薄いカーディガンを羽織ってきただけ。
急に寒さを感じる。
タイミング悪く、タクシーがいなかったので私は病院内の出入り口付近で待つことにした。
その時、視界の遠くにあの男の姿を捉えた。
私が出会った時と同じ、きっちりとネクタイを締め白衣を羽織る姿。
俺に逢いにでも来たのか?
そう、冷たい顔で言われるのも癪だ。
私は姿を隠そうと足早に歩き出した。
ところがそれが逆効果だったらしい。あの男が私の姿を見つけてしまった。
一緒にいた医師に何か告げた後、あの男はこちらへ走ってきた。