ヒトナツF-3
駐車場に車をとめて、空港ロビーへ足を進めた。
渚はチケットを受け取りに行く。
空港に入ってからは終始無言だ。
いかん…俺たちは付き合ってんだから。
最後くらい、楽しく……
するなんてヘタレには無理だった。
二十分ほど時間があったので、搭乗口の前のベンチに二人で腰掛ける。
「渚…もうあまり時間もないし、次はいつ帰るかとか話そうぜ」
とにかく空気を変えたかった。
なんだか渚が離れていきそうな空気。
「なんなら次は俺がアメリカに来てもいいぞ」
「……」
「やっぱりお前も無理だと思った?はは、俺も無理だと思うよ」
「……」
なんだよ、無視か?
もう俺たちは二十分しかないんだぞ…
心なしか、渚の手が震えているように見える。
「なあ、渚、最後にキ……」
そう言い終える前に、館内放送。
『ニューヨーク行き22便をお待ちのお客様はゲートを通過し、速やかに搭乗くださいますようお願い致します』
即ち、俺たちの時間の終わりを示していた。
「ま、まだ大丈夫だよな?ゲートの前だし…」
ヘタレ全開の俺は、オロオロとうろたえてしまう。
しかし…
渚は立ち上がった。
「渚!」
とっさに腕を掴む。
「……」
「まだいいだろ」
「……」
なんで黙るんだよ……
俺たち、付き合ってんだろ……
でも、渚は無情にもこう口にした。
「あたし、日本に帰ってきて、健ちゃんに会えてよかったわ」
「お前…なに…」
言ってんだ?
これで終わりみたいな言い方……
「健ちゃんは何も変わってなくて、優しくてちょっとヘタレで…」
誰がヘタレだ…他人に言われるとムカつく。
「心が強い」
「……っ」
「桜を守って。大切にして。」
「……お前」
なんだよいきなり。俺ら付き合ってるんじゃないのかよ…
「なにも言わないで。もちろん健ちゃんは好き。一生大切にしたい」
「……」
「でもあたしたちは、やっぱり幼なじみで、健ちゃんを桜から奪うことなんてできなかった」
「……っ」
「だって健ちゃん、本当に優しいの。あたしと付き合うことになっても、桜を心配して……あたしと桜、どっちも幸せにしたいって考えてるのわかって」
……さすが、渚だな。
俺はずっと、そう考えてたのかもしれない。