投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ヒトナツ
【コメディ 恋愛小説】

ヒトナツの最初へ ヒトナツ 39 ヒトナツ 41 ヒトナツの最後へ

ヒトナツF-4

「そういうのって、ヘタレなんかじゃないわよ」
「……」
「健ちゃん、かっこよかったよ」
「……っ」
不意に涙がこぼれた。

なんでだよ…なんでお前…笑顔でそんなこと言えるんだよ…

「あたしは帰っちゃうから、代わりに健ちゃんは桜のそばにいて」
「…うっ…ぐっ…うっ」
涙が止まらない。納得のいかない子どものように、ぐずってしまう。
「泣かないの。健ちゃんは、あたしのヒーローだもん」
「ヒー…ロー…?」
「小さい頃の健ちゃんは、あたしのヒーローだったんだよ。健ちゃんはあたしに引っ張られてる記憶しかないかもだけど」
「……」

なんとなく思い出せた。

両親の仕事の関係で、こんな辺鄙な田舎町の祖母の家に預けられた渚は、いつも泣いていて、ひとりぼっちだった。
そんな渚を笑わせたくて、毎日のように外に引っ張り出したんだっけ。

最終的には俺が引っ張り回されてたけど。

「うっ…くっ…」
「出会ったときから今まで、優しくしてくれてありがとう、健ちゃん。」
「渚…俺……」
「健ちゃん、たった一週間だけど、あたしの彼氏になってくれて、たくさん幸せな時間をありがとう」
「…ひく…っ…」
「んーん…このヒトナツの思い出を作ってくれて、ありがとう」
渚は穏やかな笑顔でそう言うと、振り返ってゲートを通過した。
「……渚!」
俺が叫ぶと、渚は足を止めた。

「……桜と……お前の帰り、待ってるから!ありがとう!渚!!」

これが俺の精一杯。
ヘタレなりに頑張れたと思う。

「……うんっ!!」

渚が最後に見せた飛びっきりの笑顔は、小さい頃の、俺を安心させた幼い笑顔にそっくりだった。


***

**



ヒトナツの最初へ ヒトナツ 39 ヒトナツ 41 ヒトナツの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前