ヒトナツE-3
「……ふう」
なんだこの展開……
俺はいつまでも心臓の高鳴りを止められなかった。
渚のこと、わかっていた。
でも、こんな桜と別れて急にだなんて、予想してなかったし。渚はなんか焦っていた。
…にしても、女ってわかんねー。
あいつら友達同士なのに…意外とこういうもんなのか?
やっぱ俺はヘタレの健吾だ。
とにかく、渚と付き合うことになったんだよな。
とりあえず、いつも通りに接すればいいのか?
つか同棲みたいになってっけど大丈夫なのか?
「健吾ー、晩御飯ー」
「お、おー」
晩飯をいつも通り食いながら、ふと思い出した。
あと一週間しかないんだっけ。
まあまた休みになれば帰ってくるんだろうけど。
いや、今度は俺がアメリカに……は無理か。俺の場合、確実に迷子になって野垂れ死ぬ。
ま、後で渚に話してみるか。
「っ」
なんなんだ、俺。
桜と別れて落ち込んでたのに、なにあっさりと楽しいことばっかり考えてんだ。
もう桜はいいのか?
渚がいれば、簡単に忘れられるのか?
「なに考えてるの?」
「……ん」
向かいに座っている渚が真っ直ぐと俺を見ている。
どうやら俺が考えていることが何となくわかったらしい。
桜といい、女って本当にすごいな…
「いや……」
「健ちゃん」
渚はそれ以上なにも言わない。
だが悲しい目をしている。
「……」
わかったよ。
今は…これからは渚を大切にしよう。
***
健ちゃんは、本当に、これでいいのだろうか。
あたしたちは、今、愛を確かめ合った。
もちろん、とても温かくて、幸せな時間だった。
健ちゃんだって、“愛してる”って言ってくれた。
でも一瞬、桜の笑顔がチラついた。
うー…やっぱり罪悪感、あるな。
「なに、考えてんだ」
健ちゃんが、夕飯のときのあたしの真似をした。
「ふふ、もう寝てるかと思ってた」
「寝れるかよ」
「……おやすみ」
「おやすみ」
あたしは何だかおかしくって、健ちゃんの胸に顔をうずめて眠りについた。
タイムリミットは、もう間もなく。