「命の尊厳」前編-11
「よかった〜!今でも1回に20錠以上飲んでるのに、これ以上増えたらどうしようと思っちゃった」
「それが上手くいけば、1回に飲む薬の量は15錠くらいになるよ」
加賀谷の言葉に、今度は口をへの字に曲げて、
「エエ〜ッ!たった5錠しか減らないのぉ」
途端に診察室に笑い声が挙がった。
「ありがとうございました!」
薬局で薬を受け取る。その袋はかなりの大きさだ。
薬局を出て自宅へ帰るバス停に向かう道すがら、何気にハンバーガー・ショップを眺めた。店内には彼女と変わらぬ歳の女の子が、笑顔をふりまいて接客をこなしている。
「お母さん」
由貴は京子に尋ねる。
「私も、あの人達みたいに働けるかなぁ…」
その言葉は彼女にとって、切実な願いだった。
由貴が退院して1ヶ月が過ぎた。
「…お母さん…速いよ…」
「何言ってるの!由貴が遅いのよ」
ジャージ姿の由貴と京子。
2人は自宅近くの遊歩道をウォーキングしていた。
病院での検査結果も良好で、軽い運動ならやりなさいと加賀谷の許可をもらった。その時、京子が誘ったのだ。
由貴は久しぶりの運動に悪戦苦闘していた。こんなに体力が落ちていたのかと改めて思う。
しかし、朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで歩いていると、心地よさを感じた由貴だった。
1周2キロのコースを40分近く掛かって2人は歩いた。わずかに滲む汗をタオルで拭きながら、ベンチに座り込む由貴。
「どお?久しぶりの運動は」
尋ねる京子。息はまったく上がっていない。
「…全然ダメ。でも、気持ち良かった…」
由貴の言葉に京子は目を細め、近くの自販機から飲み物を買って来た。
「ありがとう。喉からっから」
受け取ったのはミルクティー。
由貴はキャップを取ると、喉を鳴らして飲んだ。
「うわっ!」
途端にボトルを口許から離した。
「どうしたの?」
「これ、甘過ぎるよ!」
「だって、それいつも飲んでたヤツよ」
由貴はラベルを見る。確かに入院中にも飲んでいた銘柄だ。