ナツユメ-4
――ナツガクレ――
『十分経ったらみつけてね。』
そう言い残して、少女は十分前姿を消した。
俺は早くも後悔している。
彼女は範囲を限定しなかった。このままでは町中を捜すハメになる。
この辺の地理には全くもって疎い。どう考えても不利だ。
「俺がかくれればよかった・・・。」
しかしそれもいやだ。
少女の足で十分以内にまわれそうなポイントを、一つ一つつぶしていくしかないだろう。
近くには児童公園と竹林と駄菓子屋が一軒。
公園には隠れる場所が無かった気がするので、
俺は駄菓子屋に足を運ぶ。
「いらっしゃい。」
少女はいない様だった。店内には、ベーゴマ、
わたあめ、五円チョコレート。と、懐かしい菓子類が並ぶ。
・・・客は俺だけ。店番である老婆の視線は俺に注がれる。
出にくい・・・。
「またおいで。」
老婆の声を背に店を出た。俺の手には紙袋。
その中には一つ十円のあめ玉が五十個。
何も買わずに店を出るのは気まずい。
そして、何か買うなら、高校生男子が十円単位の買い物なんて恥ずかしすぎる。
変な見栄を張ってしまった。
俺はこういう時つくづく自分の事をお人良しだと思う。
そういえば少女探しの途中だった。俺は竹林へと足を速める。
蝉時雨。耳が壊れそうだ。目を泳がせている
と、一面緑の視界に、白い物がチラチラ動き回るのが見えた。
彼女だ。
「おい。」
俺は前方の白い物に声をかける。
「わ。みつかっちゃった!」
「いいから出るぞ。」
それでも逃げようとする少女を止める。少女はしぶしぶ俺の後に続いてきた。
「どうしてわかっちゃうのかな。」
元の木陰に戻り腰を降ろす。少女はぶつぶつ何か言っていた。
「あの林の中を逃げてればね、絶対つかまらないハズだったんだよ。」
「それじゃあ鬼ごっこじゃないか。」
「・・・そういえばそうかも。」
俺は運が良かった。見つからなければ、夏の竹林で遭難、果てには餓死という運命を辿っていたに違いない。恐ろしい。
「かくれんぼには自信あったのに。」
「残念だったな。」
「残念。」
「負け無しなのか?」
会話を弾ませようと気遣った俺のその言葉は、
少女の表情を曇らせた。
「いつもね、一人でするの。」
悲しそうな笑顔を浮かべ、少女は答えた。
『でも私、友達いないから。』
数時間前の彼女の言葉を思い出す。
少女は言葉を続ける。
「どこにかくれれば絶対見つからないかなぁって。考えて探すの。それ、私流かくれんぼ。」
「・・・・・・。」
少女は笑っていた。でも、俺は悲しい気持ちになった。
俺は手に持っていた袋を少女に差し出した。
「・・・なに?コレ。」
「やる。」
少女は袋を受け取り、中を覗く。
「わ。アメ!」
「嫌いか?」
「ううん好き!なんでこんなにあるの?」
「ノーコメント。」
「・・・くれるの?」
少女は俺の顔を見つめる。
「やる。」
「ありがとう!」
少女が嬉しそうに笑う。・・・俺も少し嬉しくなった。