ナツユメ-3
――ナツのキオク――
八年前にもなる。俺は祖母の具合いが良くないという知らせを受け、
両親に連れられてここに来た。
夏休みだった。
それきりここには訪れていない。
その後も、訪れる機会は何度もあった。しかし俺は嫌がり続け、
いつしか両親も田舎へは帰らなくなった。
俺がなぜ田舎を毛嫌いしたのかは覚えていない。
たぶん、都会での暮らしに慣れてしまって、
田舎の不便さに嫌気がさしたというところではないだろうか。こましゃくれた子供だった。
少女に出会っているとすれば八年前の夏になる。
田舎を嫌った事もかすかにしか覚えていないのに、
夏の間友達だった少女の事など覚えているわけがない。
俺はため息をついた。
「待ってたんだよ。」
遮る様に少女は言い放つ。
「桐一君はまた来てくれるって思って待ってたんだよ。」
「そうか・・・。」
「うん。」
八年も・・・。普通、八年も前に少しの間一緒に過ごした少年のことなど待っているものだろうか。
理解し難い事実だ。でも・・・
「お前がかくれろ。」
「え?」
「かくれんぼがしたいんだろ。」
気がつくと俺はそう告げていた。同情・・・していた訳ではない。
自分の事をそんなに長く覚えていてくれた事に、悪い気はしなかったからだ。
少しくらい少女につきあってやるのも悪くない。どうせ暇なのだから。
「うん!」
少女の顔が笑顔になる。
少し照れくさかった。
――夏がはじまる。