驚くべき偶然-2
「おい武、朋美さんが殺害されたって本当か。新聞でみたんだが…」
「ああ…本当だよ。」
「しかもお前が疑われているそうだが…」
「ああ…でもそれは仕方がないさ。発見者なんだから。」
「それはそうだな。でもすぐに疑いは晴れるさ。俺はお前が犯人でないと信じてるからな。あまり落ち込むなよ。」
「ありがとう。少し元気になったよ。」
「じゃあな」そう言って徹は電話をきった。
その後も捜査は続けられた。武にとって不利な方向へ進んでいるように武には思えた。
徹は毎日のように電話をくれていた。しかし徹からの電話もこなくなった。
そっとしておいてあげようと思ってくれたのだろうか…と武は考えていた。
そんなとき橋本から電話がかかってきた。
「高野武さん、署まで来ていただけませんか。できれば今すぐ来て欲しいのですが…」
「はい…分かりました…今からそちらへ伺います」
そういって受話器を置いた。
「遂に俺を逮捕するだけの証拠がそろったのだろうか。でも俺は最後まで無罪を主張する覚悟だぞ。」そう心の中で叫んだ。
署に着くや否や、橋本は会ってもらいたい人がいると言った。ある人物が自首してきたそうだが、武にしか話をしたくないと言っているらしい。
武は誰だろうと思いながらついていくと、そこは面会室だった。
橋本に促されて扉を開けるとそこには思いがけない人が座っていた。
「と…とおる。どうしてお前がここに…」
はっきりと声がでなかった。
徹は目を伏せていたが、ゆっくりと武を見てこぅ言った。
「すまない、武。俺は殺人を犯してしまった…しかもお前の恋人を…」
武は少しの間動けなかったがようやく口を開いた。
「どうして…どうしてなんだ。いつも電話で俺を励ましてくれてたじゃないか。」
「俺は…自分は関係ないと思わせたかったんだ。だから親切なフリをしたんだ。」
徹は1度話をやめて、息を整えてからこう続けた。
「あの夜、俺はお前の帰りが遅いことを知り、お前の家に向かった。訪問客が俺だと知って朋美さんはすぐにリビングまで通してくれた。そこで俺は用意しておいたナイフで一突きしたんだ。」
声は震えていた。
「本当に一突きですか。」
橋本は突然聞いた。
「はい…そうですが…」
と徹は驚きながら答えた。
「おかしいな…たしか刺し痕は2か所あったはずだが…」
と橋本は呟やいた。だがこれは武や徹には聞こえていなかった。