秋と春か夏か冬〜16話『みんなでお泊まり温泉旅行・前編』〜-5
「どうした?」
「どうしたじゃないよ!恭介がどこか行っちゃうんだもん。心配で…追い掛けてきたんだから!」
息を弾ませながら怒る夏輝。そういや黙って出てきてたっけ…。
「悪い悪い、俺は疲れてないし散歩しようと思ってな。夏輝は疲れてないのか?」
「僕は平気だよ。一緒に散歩する♪良い?」
「別に構わないが…何もない山道だから来てもつまんないぞ?」
「恭介がいれば良いよ〜♪だから…さっきみたいに何も言わずに僕の前からいなくならないでよ……昔だって…」
夏輝はシュンとなる。昔も夏輝と会っているんだよな…まだ思い出せないけど…。少し聞いてみるか。
「昔って、前にもこんな感じのことあったのか?」
「まだ…思い出せない?」
「あぁ……でも夏輝のことはどこか懐かしく感じるし、会ったことあるってのは信じてるよ。それに…いや、なんでもない」
特に最近は昔のことを思い出すのが多いから、と言う言葉を寸前で飲み込んだ。俺の中途半端な記憶が逆に夏輝を苦しめそうな気がしたから。それに全部思い出すまで、いつまでかかるかわからない。いま伝えるのはぬか喜びさせるだけだと判断した。
俺の考えが通じているのか、夏輝は穏やかな笑顔を浮かべていた。
「ありがとう……じゃぁお礼にヒントあげる♪その時はねぇ、恭介のお父さんや杏子さんもいたんだよ。もちろん僕の親も♪」
親父に杏子?あの2人と夏輝の両親?あぁ…考えすぎて頭が痛くなってきた…。
「……余計こんがらがってきた…。悪い、なるべく早く思い出す…」
「あはは♪まっ、気長にいこう♪」
さっきまでと違い、ケラケラっと笑いながら夏輝は気楽そうに言う。
それから会話をしながら夏輝と山道を散歩する。そしてふと気になっていることを聞いた。
「そういやなんでアイドルを…芸能人なんかやってるんだ?」
すると夏輝が悲しそうな顔をみせる。
「…それは…大事な大事な人との…約束だから…」
「約束?」
「…うん!約束♪」
そう言って微笑む夏輝。
こいつは悲しんだり……喜んだり……怒ったり……楽天家だったり……感情豊かだよなぁ。
…ってそういや現役の演技派アイドルだし、当然か…。だがコロコロ変わる夏輝の表情に、なんとなく違和感を感じるのは気のせいだろうか?
「ねぇねぇ、逆に僕からも聞いて良い?恭介はなんでバスケをやってたの?」
ふいに夏輝に聞かれる。
「なんでって……そりゃぁ……」
俺は立ち止まって考える。