学園の社長〜社長の連盟騒動〜-5
「お、おい、錦田」
俺がそう声をかけようとしたその時に先生が教室の中に入ってきて授業を始めたために、この話は中断された。もうなにがなんだかわからんぜ。
授業が始まると錦田は体を起こし、授業に集中しているのか真面目にノートを取り続けていた。普段のこの男は授業態度は非常に良く、はたからみるとクラスの模範的な優等生なのだ。なので教師からの評判もいい。ときどき教師と二人でなにかを話していることもあった。果たしてそれは猫をかぶっているのだろうか。 俺はそう思わずにはいられなかった。
授業が終わった後、隣の席を見ると錦田の姿は消えていた。いつもの光景だ。この男は授業は終わると信じられない速度で帰っていく。なので奴と一緒に帰ったことは転入してからまだ一度もないのだ。
「おう、種子島」
前のほうの席にいた滝沢が俺の席のところまで来た。
「種山田だ」
俺はすかさず訂正する。わざとらしい間違えしやがって・
「今日もやっこさんはテレポートしたのかい」
「ああ、そのようだぜ」
錦田の帰る姿を見たものは学園内であまりいないらしい。そのため、滝沢はこの現象をテレポートと名づけたらしい。
「じゃあ今日も一緒に帰りますか」
「ああ、いいぜ」
俺は承知する。まったく用事などないからな。
帰り道、滝沢と二人で並んで帰る。滝沢の友人は部活で忙しいらしい。俺と滝沢は帰宅部仲間でもあるのだ。私立明奉学園は全寮制の学園で、学園から男子寮、女子寮へと続く道は一本道となっている。近いので、楽といえば楽なのだが、寮に続く道以外は森林に囲まれており、帰る途中にコンビニ一軒すらないために 自然と学園と寮を行き来する生活を送ることになるのだ。不便という声もあるかもしれないが、寮と学園にそれぞれ購買があり、物資には不自由しないのだ。
俺と滝沢はそんな中を歩いて帰るのだった。
「お前も変な奴と気が合うな。あの社長さんとまともに話をしているやつなんて初めてみたぜ」
錦田はその言動から社長と呼ばれている。愛称があるだけで決して人気があるわけではないが。
「何? あいつは俺と違って高一からこの学園にいたんだろうが。だれか仲いい奴いなかったのかよ」
錦田は肩をすくめ、少しあきれたような口調で、
「ああ、なにしろ教室にいるときは勉強してるか本読んでるかのどちらかだったしな。話しかけにくいオーラがあいつの周りにただよっていたし、第一あいつ自身あまりクラス、いや学園のことに関心がないんだぜ。そんでもってあの社長は普段おとなしいくせに、たまに口を開くとどこかでおかしな電波を受信したよう なことばかりいいやがる。そんでもって嘘つき呼ばわりすると、すぐにイジケテだまってしまうような奴だからな。第一あのえらそうな口調が周りの奴には気に食わんらしい。学園祭のときもあいつは学園でたった一人の欠席者だったんだ。体育祭のときもそうだったな。とにかくクラスで社長に関わろうとしているのはお前くらい だぜ。そういえば高一の夏、一時的に奴は宇宙人じゃないかってクラスの話題になったときがきたっけな。でも夏休みが明けるころにはそんなブームはとっくに過ぎて再び目立たない生徒に戻ったけどな」
面白そうなキャラなのに、それが返って不評なのか。まあ確かにあの口調が鼻につくところはあるかもしれないな。
「ってかなんでそこまで知ってるんだよ」
「まあ俺は情報通だからな。それと種山田、お前もなにげなく有名人だぜ。あのマイナーな社長と唯一仲がいいんだからな」
「人を変人みたいにいうな」
滝沢のいう通り錦田はただの電波野郎なのか。俺にはよくわからなかったが悪い奴ではなさそうなので、友達付き合いぐらいしても害はないだろうと俺は思った。
それから俺は滝沢と他愛のない世間話をして帰った。今噂となっている生徒会の話や、今度学園内にできるカフェテリアの話など、いろいろと話題の尽きない学園だったから帰り話のネタにも困らなかった。
そして学園を出てから十分ほど歩いたところで、俺らは自分たちの暮らす男子寮へとたどり着いたのだった。この私立明奉学園は全寮制の学園で男子寮、女子寮とそれぞれ別の場所にたっていた。敷地が広いので寮もかなりスペースがあり、一人当たり十六畳の部屋が与えられていた。まあ普通の家庭のリビングルーム くらいの大きさと思っていいだろう。しかし、転入してきたばかりの俺は、この広いスペースをどう使っていいか分からず、部屋の半分のスペースは物置となっているのだ。ベッドとパソコン机以外いらないという主義の俺にはこの広さは性に合わないぜ。