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学園の社長〜社長の連盟騒動〜
【ミステリー その他小説】

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学園の社長〜社長の連盟騒動〜-19

『この潜水艦には非常の事態に船体を切り離すことができるのです。すると潜水艦は浮き上がり、船として海上を航行することができます。』
 それを聞いた錦田が顔をしかめる。
「この艦にはまだ搭載されてないと聞いていたが」
『船長が隠していたんですよ。我々も立場上むやみに口が出せない状況でしたから。メインの通信機は船長に抑えられていますが切り離しスイッチは使えるはずです』
 錦田は立ち上がると操縦する機械の下をやみくもに調べ始めた。そこには小さな窪みがあった。窪みの奥はよくみると赤いスイッチになっていた。それを確認した錦田が穏やかに通信機にいった。
「ありがとう。貴方には感謝してもしきれないだろう。よく教えてくれた」
『さすがにこのまま黙って見殺しにはできなくてね。浮上後のナビゲートもしてあげたいが、そろそろ船長が戻ってくるので我々はこれで退散させてもらいますよ』
 プツッとスピーカーが途切れる音がした。急いで電源を切ったのだろう。そして錦田が俺にいった。
「残った食料を手に持てるだけここに持ってきてくれ」
 その口調には今までの諦めと違い、力強さがあった。俺は食料が保管されている部屋に速攻で行き、残ったペットボトルの水と食料をかき集めて二箱のダンボールに詰める。そしてそれを持ってよろよろと操縦室へ運んだ。
俺が操縦室に入るのを見届けると錦田はスイッチを押した。その瞬間、車が潰されたような衝撃音がして潜水艦が一瞬揺れる。そしてフワリと潜水艦が浮いたのと同時に、操縦室が斜めに傾いた。俺たちはバランスを失ってそのまま壁の一角に転げ落ちた。
 俺たちを支えている壁とは反対方向にある窓の外を見てみると無数の泡とともに魚たちが下降していく。なんだかガラス窓付きのエレベーターに乗っているような感覚だった。潜水艦はじょじょに上がっていくのが分かった。やがて、海面が見えてきた。日光が反射してギラギラと光っている。今は夜じゃないらしい。< /SPAN>
 そこは海のど真ん中だった。わずかに雲がかった水色の空が、ゆらゆら揺れる海と綺麗に分けられていた。朝なのだろうか日はまだ高くなっていない。長い間海の底にいたために、現在の日にちや時刻すらもわからなかった。
「お、おいこれってまだ助かってねえじゃねーか」
「心配はない。このスイッチは潜水艦を切り離すと同時に潜水艦内のスクリューが起動してボートとしての役割を果たしてくれるらしい」
 確かに窓から潜水艦付近の海面を見ると潜水艦が海流に流されておらず、なにかの動力に従って航行していることが分かった。
「よかった。で、これは一体どこにむかっているんだ」
「私たちの潜水艦はそれほど島から遠くまできていない。そしてこの非常動力も限りがある。だとすると一番近い陸地に誘導するようにできているのかもしれない」
「まったくなんだよ……。非常用の食料に非常用の連絡装置に非常用の切り離し装置、そして最後は非常用のエンジンかよ。どんだけヒジョウに備えてるんだよこの潜水艦は!?」
 思わず突っ込んだ。絶望の淵から助かったという安心感もあったのかもしれない。
「そうだ。それがあの船長の性格を表しており、私の潜水連盟への脅迫まがいの勧誘に失敗した唯一の欠陥でもある。あの船長は漁船の船長をしていたわりに肝の小さい男で、神経質なほど潜水艦の故障を気にしているのかもしれない。私に酸素を作る機器を発注したのも潜水艦に本気で備え付けるつもりだったんだろう な。漁師だった時代も、漁船の備えも必要以上だったらしい」
 錦田は思った以上に山崎の性格を分析していた。ってかなんでそんな奴が漁師なんかになったんだろう。自分が作った非常用の装置を使われないように監視していたなんてアホな話だ。突っ込みだしたらキリがない野郎だな山崎って奴は。
 潜水艦ならぬ潜水艦モドキの自動操縦に任せていながらしばらく揺られていると、海の向こう側に白い浜が見えてくるのが窓から分かった。
「とうとう海岸が見えたぞ」
 錦田が歓声をあげた。見るとそれは行きにきた浜辺とは違い、散らかりが激しく、空き缶やスナック菓子の袋などのゴミが散乱している。一体どこなのだろう。やがて俺たちを乗せた艦はこうして海岸に漂着した。


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